28噂なんて気にしない

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28噂なんて気にしない

 その日朝練だった奏多と坂口くんは始業ギリギリに教室に入ってきた。二人とも噂のことは今朝知ったらしく、かなり怒っていた。 「ごめん有紗。噂流した奴の目星は付いてる」  元々目力の強い奏多が怒ると逆にナイフのように冷たい目になるみたい。この目で睨まれたら確かに怖いかも。 「和辻さん、気にしたらいかんよ? こんなん嘘に決まっとるんやから」 「大丈夫よ。こんなの、1ミリも信じてないもん」  いつも笑顔の坂口くんも目が笑ってない。すごく頭にきているのが伝わってくる。 「なあ有紗、今日弁当二人で食べられるか? 有紗に聞いてほしいことがある」 「あ、うん……どこで食べるの?」 「南校舎の並木んとこで」  ベンチが置いてあって春や秋にお弁当食べるにはいい所だ。今はまだ暑いから、人は少ないだろう。 「いいよ。じゃあ、昼休みに」  そして昼休み。チャイムが鳴ったらすぐに奏多が立ち上がる。 「じゃあ行こうか、有紗」 「うん」  なんとなく、クラスのみんなに温かい目で見送られている気がする。照れながら奈津たちに手を振り、一緒に並木のベンチへ向かった。  まだ9月の第二週だから日差しはきついだろうと思っていたけれど、幸い少し日が翳ってくれた。二人でベンチに並んで腰掛ける。 「本当にごめんな、いきなりこんなことになって」 「気にしないで。それより目星がついてるって言ってたけど、誰なん?」 「俺の中学の同級生やと思う。前に竹取りにも来てた奴」 「凛々花さん……だったよね」 「名前、覚えてたん?」 「うん。奏多の彼女かもしれないと思って、めっちゃメラメラ観察してたから」  奏多はそれを聞いて軽く笑顔を見せた。 「その頃から俺のこと、好きでいてくれたん?」 「あっ……うん、そうだよ」 「偶然やな……俺も。いや、ホントはもっと前からやけど」 「それなら、私だってもっと前だよ! 消しゴムくれた時にはもう好きやったもん」 「え、まじ? なら有紗のほうが早いかも……」  私たちは見つめ合ってからプッと笑い出した。 「何の話しとんやろ、こんな時に」 「仲がいいってことやから、いいんじゃない?」  そしてその後、奏多から凛々花さんとのこれまでのことを教えてもらった。 「後夜祭の時に『また高校でも女子から嫌われることになるよ』って言っとったからな。この噂はきっとあいつだ」 「そうかもね……証拠はないけど」 「紫苑グループに噂広めたんは須藤やと思う。凛々花と昔から仲良かったから」 「ねえ、奏多。噂なんて放っておいてもええんやない? 私らが仲良くしてたら、自然と消えていく気がする」 「でも、ちゃんとあいつらに話をつけなきゃ、何回でもこうやって噂流してくるかも」 「奏多に構ってもらいたくてやってるんじゃないかな。それに噂がまた出たとしても中学の時とは違うよ。うちのクラスはみんな奏多のこと理解してくれてるし、全員から無視されることになんて絶対ならない」  奏多は目を細め、微笑んだ。とても優しい顔で。  
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