3 悪い噂とテニスコート

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 放課後、私はまた図書館に行った。塾のない火曜と金曜は、テニスコートを見下ろせるこの窓際が私の定位置だ。  強い日差しの中、女子テニスの一年生は並んで素振りをしている。奈津の声が一番良く聞こえて、頑張ってるなあと感心する。  男子はサーブ練習のようだ。山岸くんがラケットとボールをセットする。身体を弓形(ゆみなり)に反らして高くボールをトスし、素早く力を込めてラケットを振り抜く。背の高い彼のサーブはズドンと打ち下ろすように相手のコートに突き刺さる。  ずっと手を抜くことなく一生懸命練習している彼の頭の中は、テニスでいっぱいなんじゃないか。女の子のことなんて、何も考えてなくて。  休憩時間に入ると山岸くんは楽しそうに部員の輪の中にいる。笑顔の山岸くんはやっぱり普通の男子高校生だ。教室でもあんな顔を見せてくれたらいいのにな。  ふと山岸くんが顔を上げた。突然視線がぶつかったことに動揺して、思わず手を振ってしまった。 (やばい、これじゃあファンクラブと変わらんやん……嫌がられるんじゃないかな)  ドキドキしながら見つめていると山岸くんは軽く頭を下げてくれた。横にいた坂口くんも気づいて笑顔で手を振り返してくれて、ホッとする。 (良かった、スルーされると思ったけど反応してくれた。それだけでも嬉しいな)  練習を再開し、ストロークを始める山岸くん。坂口くんと向かい合ってクロスに打ち合っている。  懸命に黄色いボールを追いかけ続ける彼の姿が、私にはなぜだかキラキラと輝いて見えていた。
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