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「めっちゃ面白かったね!」
映画が終わると興奮した私は喋りっぱなしだった。今回観たのは長く続くアクション映画の最新作。もちろん私は今までのも全部観てる。
「どの映画にするか相談した時有紗、これを一番に推してたもんな。てっきり恋愛映画を観たがると思てたんやけど」
「ドキドキハラハラが大好きなんよね~。あー、面白かった!」
映画館を出てからどこへ行こうか、と言うと奏多は行きたいところがある、と言った。
「えー、どこどこ?」
「男子同士じゃ行きにくいとこ。クレープ屋なんだけど」
そういえばこの近くに人気のクレープ屋さんがある。いつも行列が絶えない店らしくて、私もまだ行ったことはない。男子だったらなおさら行きにくいだろう。
「奏多、甘いもの好きなんだ?」
「辛いのも好きやけど、甘いのも普通に好き。クレープにはめっちゃ興味ある」
「じゃあ行こ! 二人でいたら待ってる間も楽しいしね!」
クレープ屋に到着すると、やっぱり長い列が。でも全然苦にならない。
30分ほど並んで私たちの番がきた。私はマンゴーフロマージュクレープ、奏多はエスプレッソコーヒーゼリークレープを注文。
待つこと数分、私たちのクレープが出来上がった。
「うわあ……」
私のクレープはフレッシュマンゴーの角切りとレアチーズがたっぷり巻かれ、牛乳ジェラートがちょこんと載せられている。一番上にはサクサクのクッキー。さすが、洋菓子屋が始めたクレープ屋だけのことはある。
「これもすげえ」
奏多のはクラッシュコーヒーゼリーとフレッシュ生クリームが巻かれ、上に載っているのはチョコクッキーと抹茶ジェラートだ。
広い店内のイートインスペースに座り、美味しいクレープを夢中で食べた。
「皮がもちもちで美味しい。やっぱ人気なのわかるね」
「そうやな。甘すぎなくて美味い」
先に食べ終わった奏多は私がまだ食べているのをニコニコして見ている。かなり恥ずかしい。
不意に奏多の手が伸びてきて、私の唇の横に触れた。
「ん?」
「クリーム。ついてる」
「や、カッコ悪い! 恥ずい〜」
慌ててハンカチで拭く私を楽しげに見ている奏多。
「有紗、口小っちぇえ」
実は身長が高い割に(?)口が小さい私。大きく口を開けてもなかなか食べ物が入りきらない。母も同じだから完全に遺伝だ。だけど、今まで人から指摘されたことはなかったんだけど……。
(それだけ、よく見てくれてるってことでいいよね?)
「あっ!」
「どした?」
「せっかくの初デートの初クレープ、記念に写真に撮っとけばよかったなあって」
「なんだ、そんなこと。またくればええやん」
奏多が頬杖をついて私の顔を覗き込みながら言う。神様からのご褒美みたいなその綺麗な顔に、私の心臓は止まりそうだ。
「幸せ……」
思わず天を仰ぐ私。まさに人生の最高潮って感じ。
それからはあちこちのショップをひやかしながら見て回って、帰る時間になった。中央駅でお別れだと思っていると、奏多が切符を買ってきた。
「家まで送る」
「え! だって反対方向やし、電車代だってもったいないし」
「心配やん。それに、彼女を送るのは彼氏の特権やろ?」
その言葉に、顔じゅうの筋肉が緩んでしまった。すると奏多は「ヘンな顔しとるぞ」って軽くデコピンしてきた。全然痛くないし、痛かったとしても嬉しい。
電車に一緒に乗り中央駅から私の最寄り駅までの15分間、二人でドアのところに立って暗くなった景色を眺めていた。
(このままずっと一緒にいられたらいいのに……)
奏多と過ごす遠い未来まで、私はその時初めて思い描いた。
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