30新人戦

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30新人戦

 10月。ついに奏多の新人戦の日がやってきた。  いつも自分でお弁当を作っているという奏多のために、この日私は早朝から張り切ってお弁当を作ることにした。奈津のアドバイスを受け、試合の合間に食べられるものを研究して何度も練習したのだ。  おにぎりは2種類。梅干しとちりめんじゃこを混ぜ込んだものと、ほぐした塩鮭と粗みじんにした大葉を混ぜたもの。どちらも、試合の合間にさっと食べられるように小さく握ってラップに包んだ。  主菜は、消化に時間がかかるとパフォーマンスが落ちてしまうので脂肪の多いものは避け、揚げ物もダメ。だからつくねの照り焼きと、豚もも肉とパプリカのオイスターソース炒めにした。  あとは塩昆布とネギの卵焼きとブロッコリーのチーズ焼き。デザート代わりのりんごとさつま芋の重ね煮も詰め込んだ。どれも、食べやすいように楊枝を添えて。  食中毒にならないようにクーラーバッグに保冷剤も入れて、けっこうな大荷物。 「大丈夫? 有紗。今日はパパと会合に出なきゃいけないから、車で連れて行ってあげられないんだけど……」 「大丈夫よぉ。試合会場の運動公園には中央駅からバスが出とるんやし、ヘーキ。じゃあね、行ってきまーす!」  開会式から見逃すまいと早く到着したつもりだったけど、熱心な保護者たちが観客席を埋めていて席を探すのが大変なほど。 「あ」  奏多を見つけた。外を走ってウォーミングアップしてるみたい。  私は(お弁当、持ってきたよ!)と身振り手振りで示した。そしたら、こっちに走ってきてくれた。 「有紗!」 「奏多、はいこれ、お弁当! 保冷剤入れてるから冷たいかもしれないけど」 「ありがとう。めっちゃ助かる。食べるの楽しみやな」  すごく喜んでくれてるのが伝わって、私も嬉しくなる。 「俺の試合、10時の予定やから。勝ち進んで午後も試合できるように頑張るわ」 「うん、頑張って! 応援してるね」  奏多は渡したお弁当を自分たちの荷物置き場に置いて、また走り始めた。その姿を見ているだけでも幸せだ。  
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