33夜空の星と後ろ姿

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33夜空の星と後ろ姿

(どうしたんだろう、奏多(かなた)。明日も試合があるのに)  奏多の家からここまでは自転車だと40分くらい。疲れてるのにどうしてそこまでして来てくれるんだろう。 (もしかして、今日のこと聞いたのかも)  須藤さんには口止めしたけれど、そもそも凛々花さんは隣の家に住んでいる。彼女が喋ったならあり得る。 (あんなことしておいて自分から奏多にバラすなんてないだろうと思ってたのに……)  しばらくしてスマホが鳴った。奏多からのLIMEだ。 「お母さん、ちょっと彼氏が来たから表に出てくるね」 「あら? そうなの? 上がってもらったら?」 「それはまた今度!」  カーディガンを羽織って外に出ると、門の前に奏多が立っていた。 「奏多、どうしたん? 明日試合なのに疲れちゃうよ」 「有紗が無事かどうか、会って確かめたかった」 「もしかして何か聞いた?」 「ああ。凛々花やタツローと会ったんやろ? 酷いことされんかったか?」 「うん、あのね……車に乗せられそうになった」  奏多の額にビキっと青筋が立った気がした。それくらい怒っている。 「でも大丈夫。昔習ってた空手を思い出して、タツローって人のお腹に思い切り膝蹴りを喰らわしたから」 「え。じゃあ、何もされてない?」 「うん。腕を掴まれそうになったところをこうしてこうやってね、」  その時のことを実演して見せると奏多はひどく感心していた。 「やっぱり空手やってただけあるな。咄嗟にそこまでできるなんて」 「えへへ」  叔父がやってる空手道場なので、体力作りも兼ねて今も時々通ってるのだ。 「そのあと大きな男の人も出てきたんだけど、須藤さんが私の手を引いてバスまで走って連れてってくれた」 「須藤が?」 「うん。彼女も、ホントは凛々花さんから離れたかったみたい。すごく反省して謝ってた」 「謝って済むことやないけどな。有紗に怖い思いさせて」 「ここまでやると思わんかった、って。それで目が覚めたみたい。月曜日、奏多にも謝りたいって言ってたよ」  私はケガ一つしてないんだし奏多を心配させたくない。努めて明るく話すようにしたかった。  なのに、奏多は私の顔をじっと見つめて、頬に優しく触れてくる。 「有紗に何かあったら俺、あいつらのこと殺してたかもしれん……無事で良かった」  泣きそうな瞳で奏多が見つめてくるから、私の涙腺も緩んでしまう。 「……うん……本当はすっごく怖かった……」  奏多が片手で私の頭を抱き寄せ、ポンポンと叩いてくれる。それがとても心地よくて涙はいつの間にか引いていった。 「ごめんな。怖い思いさせた」 「奏多のせいじゃないよ。悪いのは向こうやもん」 「さっきあいつにはちゃんと言ってきた。付き合うなんて絶対ないし、有紗が大切だってはっきりと。タツローの兄貴にも弟に関わるなって言われたみたいやし、たぶん今後は大丈夫やと思う。あいつの周りにはもう誰もいない」 「うん……そうだね」  
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