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近所の人が犬の散歩をしているのが見えた。慌てて身体を離す私たち。
「家の前で抱き合ってたなんて言われたらまずいもんな」
「そ、そうよね。うちの母は喜ぶかもしれんけど」
「え、お母さんってそういうノリの人?」
「うん。なんかずっと乙女な感じ。明日は車で連れてってもらうから、もしかしたら奏多と話したいって言いだすかも……」
「あ、もしそうなったらぜひ挨拶したい。有紗や有紗の家族とは、最初からちゃんとしておきたいんだ」
「奏多……」
犬の散歩をしている人がうちの前まで歩いてきた。
「あら有紗ちゃんこんばんは」
「こんばんは」
「彼氏? いいわねえ若い子は」
ホッホッホと笑いながら通り過ぎて行く。
「あの人はそんなにお喋りじゃないから大丈夫。いい人よ」
「そっか」
奏多が時計を見た。もう帰らないと、眠る時間が少なくなってしまう。
「じゃあまた明日。……おやすみ」
「おやすみなさい。気をつけて」
自転車に跨り帰って行く奏多を見送った。星が瞬く夜空にその姿が消えていくまで。
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