36文化祭

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 それから華道部で美佳の作品を見たり、喫茶室でケーキを食べたりして楽しく過ごしていた私たち。  二年の校舎をぶらぶら歩いている時に突然、青雲の先輩に奏多が捕まった。 「山岸! いいところにいた!」 「な、なんすか」 「頼む! ちょっとだけ身体を貸してくれ!」 「いやですよ。彼女と楽しんでるとこなんすから」 「頼む〜! 被服部のファッションショーのモデルが急な腹痛でさ! お前とほぼ同じ体型なんよ! ステージで服着て立ってるだけでいいから!」 「いやですって」 「ね、彼女さん! こんな服を彼氏が着てるとこ見たくない?」  見せてくれたのは黒が基調のモード系な服。ダボっとしてるのにそれでいてオシャレ。こんな服、奏多は絶対着ることないだろう。 「……正直、見たいです」  先輩はパァっと顔を輝かせた。 「やった! ありがと! じゃあ彼女さん、30分後に体育館に来て! ショーはその時間からだから。じゃ、行くよ〜山岸〜」 「有紗、裏切り者〜」  ごめんね、と手を振って奏多を送り出した私。奏多は先輩二人に脇をしっかり掴まれて家庭科室へ消えていった。そこでヘアメイクを施され、服に着替えるらしい。 (後で怒られるかもね。でも楽しみ♪)  さて待ち時間どうしようかな、と思っていると、階段の下で物陰に隠れている坂口くんがこっちこっちと手招きしていた。 「どしたの? 坂口くん。何でそんなとこに」 「さっきの先輩に、俺も追いかけられてたんよ〜。で、山岸が見えたから『山岸があっちにいます!』って言ってここに隠れてたの」 「え〜、ひどいなぁ坂口くん」  思わず笑ってしまう。私たち、まんまと坂口くんの計略に引っかかったんだ。 「あんなの恥ずかしいからさぁ。山岸には和辻さんがいるから見に来てもらえるけどさ、俺は一人やもん」 「何言ってんの、坂口くんが出るなら女の子で体育館満員になるよ。ダンスの時も凄かったやん」  坂口くんは口を尖らせて下を向いていた。そして急に思いついたようにパッと顔を上げる。 「和辻さん、ショーまでまだ時間あるやろ? ちょっと付き合って」 「え? うん、いいよ。どこ行くの」 「喫茶室のチケット余っててさ。一人で行き辛いし一緒に行って欲しいんよ」 「そんなのお安いご用よ。奢ってもらっていいの?」 「もちろん。ケーキセットのチケットやから」 「わーい。じゃあさっきと違うケーキ食べよう」  中庭に作られたテーブルセットに、二人で座った。さっき奏多と来た時はチョコレートケーキにしたので、今回はロールケーキ。 「太っちゃうかな」 「和辻さんはスラッとしてるから太っても大丈夫」  何となく、周りの女子の視線を感じる。坂口くんと一緒にいるからだろう。  でも私が奏多の彼女ということも、奏多と坂口くんが親友だということも有名だから、変な勘繰りをされることはないはず。
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