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「ねえ坂口くん。坂口くんは彼女とか作らんの?」
「んー? そうやねえ、作りたくなったら作るかもしれんけど」
「今はそんな気分やないってこと?」
「まぁね。クラスは楽しいし部活も楽しいし。それだけで十分」
「ふふっ。楽しいのが一番やもんね」
「そういうこと」
一瞬、冷たい風が中庭を吹き抜けた。もうすぐに11月になる。今は合服のベストだけだけど、11月には冬用のジャケットを着るようになる。入学式の時、カチカチにかしこまって着ていたジャケットを。
「あっという間の半年間やったねぇ」
しみじみと言うと、坂口くんもそうだねえ、と相槌を打った。
「ねえ和辻さん」
少し坂口くんの顔が近くなる。内緒の話でもあるのかな、と私も顔を寄せた。
だけど坂口くんは何も言わずに、しばらく私の顔をじっと見ている。こちらが勘違いしてしまいそうなほど熱を帯びた瞳で。
「……うん、なあに?」
そう返事すると彼はふっと唇に笑みを浮かべて下を向いた。そして顔を上げた時にはいつもの坂口くんだった。
「……あのさ。山岸はさ、本当に和辻さんのこと好きやからさ。もしかしたら二人、このまま結婚するかもね」
「え! 坂口くんたら急に何言っとるの」
実は私も将来のことなどをたまに考えたりしていて、いやいや早すぎるでしょと自分を諌めたりしているんだけど。こんなこと言われたら嫌でも意識してしまう。
「そしたらさ、二人の結婚式には俺も呼んでね」
「もちろんだよ! もし本当にそうなったら絶対に呼ぶし、スピーチもお願いするから。司会もやってもらおうかな」
「それは和辻さん、俺をこき使い過ぎー」
坂口くんが目を細めて笑う。私もつられて笑った。
「あ、そろそろショーの時間やない? 一緒に見に行こっか、和辻さん」
「ホントだ! うん、行こっ。坂口くん、ご馳走様でした」
「どういたしまして」
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