4 Tシャツと消しゴムと恋心

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 行事のたびにお揃いのクラスTシャツを作るのが慣習らしいので、希望者を募るために私は教室後方の掲示板にプリントを貼っていた。  その時、私の後ろを通り過ぎようとする山岸くんの低い声が聞こえた。彼のイケボはすぐに分かる。どうやら坂口くんと一緒みたいだ。私は振り向いて話しかけてみた。 「ねえねえ、二人ともクラスTシャツ申し込むよね?」  そう言うと坂口くんがほんわかした声で応えてくれた。 「和辻さん張り切っとるねえ、さすが委員長やあ」  坂口くんは茶色い髪にタレ目が可愛い、いつもニコニコして優しそうな人だ。彼が隣にいることで山岸くんの怖い顔が中和されて和らいで見える気がする。 「せっかくやし、みんなでお揃いの着ようよ」 「そうやね、和辻さんがそう言うんなら買おっかな〜。なあ、山岸?」  山岸くんは肩に手を掛けて絡んでくる坂口くんを鬱陶しそうにあしらいながら、「いいよ。俺と坂口の名前、書いといて」と言った。 「ありがとー。まずは二人ゲット!」  それをきっかけに他の人からも注文が入り、結局全員が購入することになった。 「ありがとう、山岸くんたちのおかげだよ」  席に戻った時にお礼を言った。 「別に、俺らなんもしてないよ」 「ああいうのって、誰かが先陣きって申し込んでくれんと始まらんやん? だからめっちゃ助かったんよ」 「まあ、役に立ったんなら良かった」  山岸くんは微笑んでくれた。笑顔! やっぱり可愛い。怖い真顔とのギャップがすごい。  チャイムが鳴り授業が始まると先生が小テストをすると言い始めた。 「教科書はしまってー。筆記用具だけなー」  いきなりテストなんて!としぶしぶペンケースを開きシャーペンを出していると、まずいことに気がついた。 (やば。やっちゃった)  どうやら消しゴムを忘れたらしい。あちこち探したが見当たらない。アタフタしていると山岸くんが声を掛けてくれた。 「和辻さん。どしたん」 「あ、消しゴム忘れたみたい。間違えたらやばいわあ」  恥ずかしいのを誤魔化すためにへらっと笑って見せた。すると山岸くんは自分の消しゴムのカバーを外して真ん中に爪で傷を入れてからグッと曲げて二つに割り、「はい。これ使(つこ)たらええ」と差し出してくれた。 「え! ええの? 新しい消しゴムやのに」  私は申し訳ないのと嬉しいのがごちゃ混ぜになりながら手に載せてもらう。 「うん。もうあげるけん返さんでいいから」 「ありがとう! 今度お礼するね!」 「ええよ、割った消しゴムの礼なんて」  山岸くんは苦笑いしながらテスト用紙に視線を落とした。 (優しいな、山岸くん……)  半分に割れた白い、ありふれた消しゴム。私はそれをじっと眺め、とてもほんわかした気持ちになった。使わずに大切に取っておきたいぐらい。  その時の私は、きっともう、山岸くんを好きになっていたんだと思う。
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