37 最終話 クリスマスデート

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 ゆっくりゆっくり、時間を惜しむように歩いてから予約していたカフェに入った。中は暖房が効いていて、冷えた体が急速に温まっていく。 「ここのパンケーキ、絵本の『ぐりとぐら』に出てくるパンケーキをモチーフにしてるんだよ」  焼くのに20分かかるため個数制限があり、予約しておかないと食べられない。今日出掛けることが決まってすぐに、私はスマホで予約した。  スマホで調べた感じではナチュラルな内装のカフェだったけど、さすがに今日はクリスマス仕様の飾り付けになっていた。緑と赤がとても可愛くて、さらに気分が盛り上がる。  焼けるのを待ってる間にプレゼントを交換。 「あ……被っちゃったね」 「ほんまや。俺もマフラーにした」  お互いに顔を見合わせて笑う。奏多がくれたのは水色とグレーのリバーシブルマフラー。巻くといいニュアンスが出てめちゃくちゃ可愛い。 「有紗に似合うと思ってさ……一人で買うのなかなか恥ずかしかったけど」 「嬉しい。ありがとう」 「俺も嬉しい。これ、学校で使ってもええの?」 「もちろん! 通学の時に温かいと思って買ったんやもん」  ちょうどパンケーキが焼き上がり運ばれてきた。  切り株を利用したトレイの上に鉄製の小さなフライパン。そこからはみ出んばかりにふくらんだパンケーキはまさに『ぐりとぐら』だ。割れ目にバターが乗せられじゅわっと溶け出した上に粉砂糖がまぶされていて、とても美味しそう。  ふかっとしたケーキにナイフを入れるとしゅわしゅわと空気が抜けていく。口に入れると軽くってほんのり甘くって、何もつけなくても十分なほど。  別添えされたクリーム&バニラアイスは甘すぎずさっぱりしていて、ケーキにつけてもくどくならない。その上からメープルシロップをかけるとさらに美味しくなる。 「美味しいー! ね、奏多。美味しいよね」 「そうやな。大きいけど軽いからぺろっといけるな」  奏多がホントに美味しそうに食べてくれているので、この店にして良かったぁ、と嬉しくなる。 「ねぇ奏多。これからもずーっとこうして美味しいもの食べたり綺麗なもの見たり、並んで歩いたりしたいね」 「……それはプロポーズってことでいいですか」 「え? あ! ほんとだ」  焦ってあたふたする私の手にそっと奏多は手を重ねる。そして目だけは楽しそうにおどけているけれど、ぺこりと頭を下げて言う。 「よろしくお願いします」 (よろしくされちゃった! あれ? 気がつかないうちにプロポーズ成功したってこと?)  奏多は蕩けそうに甘い微笑みを浮かべて私を見てる。この顔は、私の前でしか見せない。私だけの奏多だ。  
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