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ゆっくりゆっくり、時間を惜しむように歩いてから予約していたカフェに入った。中は暖房が効いていて、冷えた体が急速に温まっていく。
「ここのパンケーキ、絵本の『ぐりとぐら』に出てくるパンケーキをモチーフにしてるんだよ」
焼くのに20分かかるため個数制限があり、予約しておかないと食べられない。今日出掛けることが決まってすぐに、私はスマホで予約した。
スマホで調べた感じではナチュラルな内装のカフェだったけど、さすがに今日はクリスマス仕様の飾り付けになっていた。緑と赤がとても可愛くて、さらに気分が盛り上がる。
焼けるのを待ってる間にプレゼントを交換。
「あ……被っちゃったね」
「ほんまや。俺もマフラーにした」
お互いに顔を見合わせて笑う。奏多がくれたのは水色とグレーのリバーシブルマフラー。巻くといいニュアンスが出てめちゃくちゃ可愛い。
「有紗に似合うと思ってさ……一人で買うのなかなか恥ずかしかったけど」
「嬉しい。ありがとう」
「俺も嬉しい。これ、学校で使ってもええの?」
「もちろん! 通学の時に温かいと思って買ったんやもん」
ちょうどパンケーキが焼き上がり運ばれてきた。
切り株を利用したトレイの上に鉄製の小さなフライパン。そこからはみ出んばかりにふくらんだパンケーキはまさに『ぐりとぐら』だ。割れ目にバターが乗せられじゅわっと溶け出した上に粉砂糖がまぶされていて、とても美味しそう。
ふかっとしたケーキにナイフを入れるとしゅわしゅわと空気が抜けていく。口に入れると軽くってほんのり甘くって、何もつけなくても十分なほど。
別添えされたクリーム&バニラアイスは甘すぎずさっぱりしていて、ケーキにつけてもくどくならない。その上からメープルシロップをかけるとさらに美味しくなる。
「美味しいー! ね、奏多。美味しいよね」
「そうやな。大きいけど軽いからぺろっといけるな」
奏多がホントに美味しそうに食べてくれているので、この店にして良かったぁ、と嬉しくなる。
「ねぇ奏多。これからもずーっとこうして美味しいもの食べたり綺麗なもの見たり、並んで歩いたりしたいね」
「……それはプロポーズってことでいいですか」
「え? あ! ほんとだ」
焦ってあたふたする私の手にそっと奏多は手を重ねる。そして目だけは楽しそうにおどけているけれど、ぺこりと頭を下げて言う。
「よろしくお願いします」
(よろしくされちゃった! あれ? 気がつかないうちにプロポーズ成功したってこと?)
奏多は蕩けそうに甘い微笑みを浮かべて私を見てる。この顔は、私の前でしか見せない。私だけの奏多だ。
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