37 最終話 クリスマスデート

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 カフェを出るともう暗くなっていた。夏はあんなにも日が長かったのに。もう、駅に向けて帰らなければならない。  私たちは自然と公園のほうへ歩いて行った。いつも学校帰りに寄っている公園。緑が多いこの公園にも、今日明日だけはイルミネーションが点灯しているはず。 「あ、あった」  公園の中央にある手頃な大きさの木に飾り付けがしてあった。その飾りは実はみかんの皮でできている。我が県の名産である温州みかんの皮を乾燥させて丸く形づくり、LEDの電球を中に入れてオーナメントにしているのだ。  都会でよく見るような派手な電飾ではないけれど、オレンジ色の光が温かい、手作り感いっぱいの可愛いらしいツリーだ。 「ロマンチックな感じはしないねぇ」 「そうやなぁ。ほのぼのって感じや」  広い公園内にはベンチが点在していて、座っているカップルも多い。私たちも隅っこのベンチに腰を下ろし、寒いからぴったり身体を寄せて座った。 「大丈夫? 寒くないか、有紗」 「引っ付いてるから大丈夫。奏多は?」 「寒さは大丈夫やけど、理性がどっか行きそう」 「?」  奏多は見上げる私の顔をじっと見つめて。 「俺、有紗の顔ほんとに好きだ……もちろん、性格も全部好きやけど、顔がめちゃくちゃ好み。あくびしててもしかめ面してても、どんな顔してても可愛い」 「ええっ」  急な告白にドキドキしてしまう。そんなに褒められるの、慣れてないもの。 「わ、私だってそうだよ。最初からカッコいいと思ってたし声も大好きだし、優しいところも二人きりの時はいたずら好きなところも、奏多の全部が好き」  私が言い終わると沈黙が訪れた。奏多は優しい顔をして私を見つめている。その瞳から目を逸らせない。  そっと奏多の顔が近付いてきた。甘い予感に目を閉じると、ほんの微かに唇に温かい何かが触れた。 「有紗……」  奏多が呟く。ああでも、初めてのキスなのにあまりにも一瞬の出来事だったからよくわからなかった。 「奏多、もう一回……」  そうお願いすると奏多は、有紗可愛いすぎ、と俯いた。そして今度は肩を軽く抱いて引き寄せて、少し長いキス。唇が重なっただけなのに、奏多と一つになったような気がするのはなぜだろう。 「……ふぁっ……」  息をするのを忘れていて、変な声が出てしまった。そんな私を笑ったりせず、奏多が抱きしめる。大きな私でもすっぽりと包まれるのは奏多の背が高いから。  そして、大好きな低い声が耳元で囁く。 「有紗、一生大事にする。ちゃんとしたプロポーズはまた大人になったらするけど、有紗の隣はもう俺だけにして」 「うん。もうずっと、奏多だけだよ」  奏多の言葉が宝物のように胸に響く。最初は無口な人だと思っていたのに、こんなにたくさん素敵な言葉をくれる人だったなんて、嬉しい誤算だ。 (奏多、大好き。あなたとずっとずっと一緒にいたい)  クールな奏多の温かい腕の中で、私は世界一幸せな女の子になった。 (完) 〜〜〜〜〜 最後までお読みいただきありがとうございました! 二人の話はここでおしまいですが、 このあと三年生になった坂口の番外編をスター特典で投稿します。 そちらもよろしくお願いします!  
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