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「わかったよ! やるだけやってみるよ。やりゃいいんだろ?」
「そんな言い方しないでよ。良かれと思って言ってるんだから」
「……そうだな。悪かった」しおらしい彩未の言葉で冷静になり、素直に謝罪した。
しばらくの間、ダイニングに沈黙が落ちる。
俺は無言で適当につまみを頬張りながらワインを飲んでいたが、彩未は黙ったまま俯いているだけだった。
「――わかったよ。結果がどうなるかはわからないけど、何か書いてみるよ」
この澱んだ状況を打破するには、こう言うしかないと思った。
すると彩未は、嬉しそうに顔を上げた。「本当にっ?」
「ああ、本当だよ。俺も一応ライターだし、小説執筆には興味があるしね。結果がどうなるかはわからないけど、一応チャレンジしてみるよ」
「やったぁー! 壮介なら絶対いけると思う! 私、全力で応援するから!」
彩未のこんな笑顔を見たのは久しぶりだった。
そんなに俺に小説を書いて欲しかったのだろうか。
小説の新人賞に応募する人間は山ほどいる。
その中から、大賞を取れるのは基本的に一人だ。
そんな狭き門をあっさり通過できるわけがない。
でも彩未の喜びっぷりを見ると、まるで「小説執筆=成功」とでも言わんばかりの喜びように思えた。
まあ、何でもいい。
とりあえず彩未のご機嫌が取れているのならばそれでOKだ。
それだけ、優香と会うためのスケジュール調整もしやすくなるかもしれない。
小説のネタ集めだとでも言い張れば、帰宅時間が変則的になっても怪しまれなくなる。
フリーライターという特性上、ただでさえ帰宅の時間はバラバラだが、今まで以上に融通が利くということになるのだ。
それに、小説を執筆して新人賞に応募する、というのもやぶさかではない。
宝くじを買うようなものだが、宝くじだって買わなければ当たらないのだ。小説の新人賞も、応募しなければ選ばれることもない。
優香と会える時間を増やせそうな上、宝くじ感覚で新人賞にも応募できる。一石二鳥な状況を与えられたことで、俺のテンションは上がっていた。
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