158人が本棚に入れています
本棚に追加
【第10話】
「ち、違う! 俺がレバニラを食べなかったのは、レバーが大嫌いだからだ。――そうだ、妻に聞いてください。すべて正しく説明してくれるはずだから、誤解も解けます。今、妻はどういう状態ですか? 喋れますか?」
「ええ、辛そうではありますが、なんとか喋れますよ」
「じゃあ聞いてみてください。俺が妻に危害を加えようとするはずがないって証言してくれるはずです」
長身の警官が嘆息する。「もうすでに話を聞きました。――いえ、こちらから聞く前に、奥さんから話してくれましたよ」
「え……? な、何をですか?」
「夫が私を殺そうとしている可能性が高い、って」
一瞬、何も考えられなくなってしまった。
今耳にした言葉を、脳が必死で受け入れないようにする作業で手一杯なのかもしれない。
「どうしましたか北村さん。密かに企んでいた悪事が奥さんに知られていて、ショックですか」
「そんな……そんな……」
「北村さん、最近は随分と毒についていろいろ調べていたみたいですねぇ」犯人を追い詰めるかのようなねばっこい語り口だ。
「あれは、小説を書くための調べものです! それは妻も知っているはずです」
「おっと、奥さんのおっしゃる通りでしたね」
「え?」
「奥さん、言ってましたよ」長身警官が顔を近づけてきた。「あなたは、そうやって言い逃れようとするはずだ、ってね」
「な、なんだって……?」
最初のコメントを投稿しよう!