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【第1話】
「いろいろあったけど、今日で結婚五周年だね」
ワイングラスで乾杯した、チン、という心地よい音色とともに、彩未の鼻にかかったような甘い声が俺の耳にすべり込んできた。
自宅のダイニングでの、ささやかな結婚五周年記念のお祝い。
テーブルには、チーズや生ハム、ローストビーフなどが並んでいる。
すべて、近所の高級スーパーで彩未が買ってきたものだ。料理の苦手な彩未は、滅多に料理をしない。作るとすれば俺だ。
お互い二十五歳の時にコンパで出会い、交際が始まり、翌年結婚。
すぐに一児をもうけ、幸せで順風満帆な家庭生活を送っていた。最初の二年ほどは。
四歳になった息子の林太郎は、リビングのソファですやすやと昼寝中だ。
すでに午後六時を過ぎているので、昼寝と呼んでいいのかは微妙だが。
「気付けば、あっという間だな」彩未の言葉に応える。「こんな俺が、まさか結婚生活を五年も続けられるとは思わなかったよ」
「私の我慢の上で成り立ってるんだからね。感謝してよ、壮介」
彩未が、いたずらっぽく笑う。
確かにその通りだ。
彩未の懐の深さがなければ、今の状態はあり得ない。
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