特異点

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需要と供給のバランスはシステムに組み込まれ、過剰な供給による食品ロスは限りなくゼロに近づき、廃棄物も削減されていった。 インフラに至っては限りなく『無駄を省く』機能の追加と気象情報と自然エネルギー発電をリンクさせ、省エネルギー対策と排出ガス抑制に貢献した。 こうして人間よりも遥かに使がいい自律型AIは瞬く間に社会に浸透していった。 人手不足は解消し、人間の労働時間は大幅に短縮されていった。 給与や賞与は変わらず週休3日制が当たり前になった頃、社会に変化が起こり始めた。 人間の需要と供給のバランスが崩れはじめたのだ。 優秀な自律型AIを導入すれば手が掛かり、即戦力にならない新卒を採用する必要がなくなった。 就業率ほぼ100%を誇っていたこの国の新卒就業率は30%にまで落ち込んだ。 これが最初の変化だった。 次の変化は生産性の向上。 高い報酬に見合わない能力の管理職人員が不要要員として排除されていく。 人員が減れば事務所スペースも縮小できるから固定費の大幅削減が可能となった。 オフィス街は空き部屋や空きビルが急速に増加し、周辺の飲食店や小売店等の商業施設も姿を消していった。 賑わいを見せていた街全体から明かりは消え、廃墟となっていった。 これが人口減少を危惧していた社会が人余りに逆転した一つ目の特異点だった。
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