女中のタマ・1

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女中のタマ・1

「龍之介坊ちゃん別に結核とかではないんでしょ?」 「たまに咳き込んでるとは聞くけど、ずっと1人で居るんだから結核に感染することはないんじゃないかね?よく分かんないけどさ。それにしても龍之介坊ちゃんは妾の子だからって奥様もちょっと酷いよね。まだ小さい子を離れに長年1人だけ隔離してさ」  先輩女中のいねさんとすえさんが窓やら本棚やらを雑巾で拭きながらしゃべっている。  新米女中のあたしはそれを聞きながら床を雑巾でせっせとゴシゴシ拭いている。  あたしは2週間前からここ松尾の邸宅で女中をしている。    もともとはお母ちゃんの職場だったのだが、お母ちゃんが足を怪我したのであたしがお母ちゃんの代わりにここで働くことになったのだ。  お母ちゃんの娘だということで、みんなあたしに優しくしてくれる。お母ちゃんはみんなに好かれていたんだ。そう思うとうれしくなった。  あたしの家にはお母ちゃんのお母ちゃんであるお祖母ちゃんもいるので、あたしが働いている間は、お祖母ちゃんがお母ちゃんの世話をしてくれている。  いねさんとすえさんはお屋敷事情を夢中で喋っていた。 「もう3年だっけ?たしか今年で10歳だよね?旦那様も坊ちゃんのことはほったらかしだしね」 「跡取りがすでに3人いるから1人くらいどうでもいいんだろうね。基本的に家のことは奥様に任せっきりで放置だし」 「ご飯も毎食坊ちゃんの分だけわたしたち女中より粗末なものを与えるように指示が出ているしね」 「坊ちゃんは可哀想だけどわたしたちは奥様に逆らえないからね」  なんだかよく分からんが龍之介とやらは可哀想なんだな。  そう思いながら桶に入った水で雑巾を洗おうとした。水は真っ黒けになっている。 「お水かえてきま――す!」  桶を持ち上げるあたしに、いねさんとすえさんが振り向いた。 「ああ、お願い」 「タマちゃんがいると力仕事率先してやってくれるから助かるわ」 「まだ12歳なのにえらいね」 「お母さんに似たんだね」  若者がお母ちゃんと同じ年齢の女の人たちに楽をさせてやるのは当然だ。それに女の人は力が弱いからな。あたしは頑丈だから力仕事は引き受けるようにしている。
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