18人が本棚に入れています
本棚に追加
叶は医者でもありながら、失恋の痛みや自己の回復など、恋愛において生じやすい症状の緩和を目指した薬の研究をしている。ココロは以前、叶の患者であったが、縁あって今は助手として働いていた。
「所長、あの人」
「何だ?」
ドアの前で、疑い深い目をした長身の男がこちらを見ていた。
「こちらに用でしょうか?」
叶がココロを庇うように前に出た。
「近くの出版社で働いている森下正直という者だが、姉がこちらの先生に大変お世話になったとかで一言お礼をと」
言葉とは裏腹にあからさまに不機嫌な表情だ。
「ははあ、なるほど」
叶がにやりと笑った。
「それはわざわざどうも」
「姉には、いったいどんな薬を飲ませたんです」
ココロは森下から敵意にも似た視線を感じたが、叶は至って落ち着いていた。
「お姉さんはどのように話されたんです?」
「……今の自分に必要な薬だとしか」
家族にも詳しいことは話したくないという患者は多い。
「医師として最良の処方薬を出したつもりです。何か問題がありましたか?」
最初のコメントを投稿しよう!