甘く、苦い

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 家族を心配するあまり、詐欺だと乗り込んでくる者も少なくはない。その度に、真摯に対応する叶をココロは近くで見ていた。 「恋愛で傷ついた心に効く薬なんて、本当にあるのか?」  森下は、壁に貼られた胡散臭いポスターを指差す。 「もちろんです。もしかして診察希望ですか?」  森下はわざとらしく咳払いをした。 「本来はかかりつけの病院からの紹介状がないと診ないんですが、お姉さんの紹介ということで今回は特別に診てあげましょう」  叶はココロに目で合図して診察室へ入っていった。森下を患者とみなしたおかげで、ココロも仕事モードに切り替わった。 「おかけになって問診票の記入をお願いします」 「いや、まだ診て欲しいなんて言ってないが」 「でも、叶の薬をお疑いなんでしょう? ご自身で飲まれて判断されてみては?」 「毒なんて入れないだろうな?」 「そんなことありえません。叶は医師ですよ」  森下は問診票を見てため息をついた。 「こちらのペンをお使い下さい」  森下はよれよれとソファーに座った。 「酷い質問だ」  書き終えた森下は少し顔が赤かった。 「処置室へどうぞ――所長、入りますよ」
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