甘く、苦い

7/14
前へ
/14ページ
次へ
 心配するココロを無視して、森下の方へくるりと向いた。 「森下さん、これを飲んでください。女性への悪感情を緩やかにし、安眠を妨害する悪夢も減らせるはずです」  森下がぴくりと動き、ハート形の薬をむずと掴むと躊躇せずに口の中に放った。薬は落雁みたいにすっと溶ける。 「森下さん?」  森下は気絶するように眠った。  目を覚ましたのはそれから二時間後だった。診察ベッドの上でぼんやりと天井を見ている。 「森下さん、具合はどうです?」 「君は――何て美しいんだ」  むくりと起き上がってココロの手を握った。 「所長! 森下さんが変です」  叶がカーテンをめくって診察室から顔を出し、二人を交互に見た。 「成功だな」 「どこがですか!」  森下はうっとりとココロを見つめている。 「気持ち悪いので何とかしてください」 「薬の副作用だな。面白い出方をするもんだ」 「メモしてないで」  叶は興味深そうに、二人のやりとりを見ている。 「ココロさん、僕と付き合いませんか?」 「人格まで変わってます」 「ははは。何を言うんです。おかしな方だ」 「即効性のない薬の組み合わせなんだがなあ」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加