18人が本棚に入れています
本棚に追加
「それは薬を飲ませる為の工夫だろう」
「それです。飲みやすさって大事でしょう。ここは恋の病専門ですからね。味にも見た目にもこだわってるんですよ」
「個人的には無味の方がマシだ」
そう言って、ウォーターサーバーの冷水をがぶ飲みした。
「フレーバーも色々あるんですよ。珈琲味とかミント味とか」
「今度はミント味がいい」
「分かりました。申し伝えますね」
「――じゃあ」
次の予約の患者が入って来て、森下は慌てて立ち上がった。
「森下さん、薬の副作用には気を付けて下さいね。何かあったらすぐに電話を」
言い終わる前に森下は顔を隠すようにして外へ出て行ってしまった。
それから五日後の午後診療が終了した夕方、真っ青な顔で森下が飛び込んで来た。
「どうしたんです?」
「先生は」
「いますけど。えっ、ちょっと」
森下はケーキの箱をココロに押し付けて、診察室のドアを開けた。
「先生、処方を変えて貰えませんか」
森下は驚くほど腰が低くなっていた。
「問題ありましたか?」
叶はさっとメモを取る準備をした。
「問題大ありですよ!」
森下はそう叫んでわなわなと震え出した。
「落ち着いて話してみてください」
最初のコメントを投稿しよう!