甘く、苦い

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 早朝、ココロは研究所と美容院の隙間から、配達員が郵便物を宅配ボックスに入れ、バイクで去っていく様子を見ていた。 「心配になるからやめなさい」 「所長……」  この研究所の所長であり医師の叶がタブレットでココロの行動記録を付けた。 「いちいち私のこと書かなくていいですから」  叶がココロの頭のてっぺんからつま先までじっくりと観察して、 「発汗しているな。情緒に乱れがある証拠だ。処方してやろうか?」と真顔で言った。 「いりません。ちょっと郵便配達の人が素敵だなって見ていただけです」 「冗談だよ。そうむきになるな」  叶のからかいにいちいち反応していては身が持たない。 「そんなことより、酒井商店さんに処方薬を届けて来ました」  叶が医師の顔に戻る。 「それで、今回はどこに籠城したんだ」 「部屋の押入れでした。従業員の方達が、泣いて出て来ない酒井さんにすっかり困り果てていました」 「いつものことながら感情豊かなことだ。失恋もほどほどにしてほしいな」
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