152人が本棚に入れています
本棚に追加
何も言わない楽くんと一緒にしばらくウサギを眺めていると、楽くんが少し肩を動かした。
楽くんのランドセルの中で、教科書や筆箱がガタンと小さく音をたてる。その音にまざって、思いつめたような楽くんの声が聞こえてきた。
「やっぱりおれ、明日のフリーステージに出るのやめる」
「え?」
「この学校に転校してくるまえに、もう人前で弾かないって決めてた。それなのに、自分で決めた誓いを破るんじゃなかった……」
泣きそうな声でそう言って、楽くんが顔をひざに押し付ける。
「そんなふうに言わないでよ……。今日までふたりで練習がんばってきたじゃん。黒板のいやがらせだったら、気にしないほうがいいよ。楽くん、ほんとうにピアノうまいし。親のコネなんて言ってる人たちもあんないやがらせした人も、楽くんのことをねたんでるだけだよ」
「どうだろ……」
わたしのせいいっぱいのフォローに、楽くんは力なく首を横に振る。
最初のコメントを投稿しよう!