第六楽章

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 何も言わない楽くんと一緒にしばらくウサギを眺めていると、楽くんが少し肩を動かした。  楽くんのランドセルの中で、教科書や筆箱がガタンと小さく音をたてる。その音にまざって、思いつめたような楽くんの声が聞こえてきた。 「やっぱりおれ、明日のフリーステージに出るのやめる」 「え?」 「この学校に転校してくるまえに、もう人前で弾かないって決めてた。それなのに、自分で決めた誓いを破るんじゃなかった……」  泣きそうな声でそう言って、楽くんが顔をひざに押し付ける。 「そんなふうに言わないでよ……。今日までふたりで練習がんばってきたじゃん。黒板のいやがらせだったら、気にしないほうがいいよ。楽くん、ほんとうにピアノうまいし。親のコネなんて言ってる人たちもあんないやがらせした人も、楽くんのことをねたんでるだけだよ」 「どうだろ……」  わたしのせいいっぱいのフォローに、楽くんは力なく首を横に振る。
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