第六楽章

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「コメントでおれのピアノを好きって言ってくれる人もいたけど、ひとつの悪口って、100個のほめ言葉にも勝っちゃうんだよね。悪口みたいなコメントがくるようになってから人前で弾くのがイヤになって、親には動画のアップもやめてもらった」  「最近の楽くんのピアノ動画がないのは、そういう理由だったんだ……」  楽くんの話を聞いて、わたしはすごく悲しい気持ちになった。  ひとつの悪口は、100個のほめ言葉に勝つ。それは、なんかちょっとだけわかる。  わたしも、友達や弟の悠斗とのケンカしたとき。自分を否定するような何気ないひとことに、ものすごく落ち込んだことがあるから。 「でもまあ、コメントで言われた悪口も全部が間違ってるってわけじゃないのかも。動画で一緒にピアノを弾いた人の中には、おれの親のファンですって人も何人かいてさ。そういう人たちは、おれが有名な指揮者とピアニストの子どもじゃなかったら声もかけてこなかったんじゃないかなって思う。それに、表現力がないっていうのもホント。小さい頃から、『楽のピアノはスキルとテクニックがあってうまいけど、弾き方がロボットみたい』っ親や先生にときどき言われてたし」 「そんなことないよ……」 「そんなことあるよ。前に春岡も言ったじゃん。おれはカンペキに弾こうとするばっかりで、楽しんでピアノを弾けてないって」 「そんな言い方はしてないと思うけど……」  ぐっと言葉をつまらせるわたしに、楽くんがゆるりと首を振った。
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