第六楽章

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「べつに怒ってるわけでも、嫌みでもないよ。おれは楽譜通りに正確に弾くのは得意だけど、感情をいっぱい入れて弾くのはあんまり得意じゃない。なんか恥ずかしいし。おれと違って春岡のピアノの音は、いつも純粋な楽しいって気持ちが伝わってくるから。そういうの、うらやましい」  楽くんが、三日月形に目を細める。  笑っているはずなのに、楽くんの顔はなんだかとてもさびしそうで。わたしの胸がぎゅーっと苦しくなった。 「わたしは、どんな曲でもカンペキに弾きこなせる楽くんのほうがうらやましいよ。それに、わたしは楽くんのピアノに表現力がないなんて思ったこと一度もない」  わたしが言うと、楽くんがちょっとびっくりしたように目を見開いた。
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