第六楽章

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「どうか、お願いします!」  ドキドキしながら、頭をさげる。だけど、楽くんは差し出した手をすぐに握り返してはくれない。  ピューピューと吹く冷たい冬の風にさらされて、少しずつ手先が冷たくなってくる。  やっぱり、だめなのかな。楽くんの気持ちは、変わらない……?  あきらめて顔をあげようとした、そのとき。楽くんがわたしの右手を握って立ち上がった。 「ギリギリになって、逃げようとしてごめん……」  キュッと唇をかむ楽くんの目に、さっきまでの迷いはない。 「春岡ってすごいよな。おれのことフリーステージに誘ってきたときも強引だなって思ったけど、最後の最後まですっごい強引」 「え……?」  眉をしかめて首をかしげると、楽くんが、ふっと口角を引き上げた。
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