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ちゃんと弾けるかな。指、震えちゃわないかな……。
ドキドキしながら楽くんにつながれた手にぎゅーっと力を込めたとき、わたし達の演目を紹介するアナウンスが流れ始めた。
「プログラム五番、ピアノ・デュオ『ニュー・ワールド』 六年一組春岡 結衣、六年二組秋野 楽」
もう、どうしようってくらいにカッチコチになっている手足。右手と右足を同時に前に出そうとすると、楽くんがわたしの耳元で、ふっと笑った。
「そんなカチコチで、ピアノ弾けんの?」
「だ、だって……」
スポットライトの当たるステージも、シンと静まり返った客席も。見慣れた学校の体育館が、まるで別の場所に見えて。緊張せずにはいられない。
泣きそうになりながら楽くんを見上げると、暗がりのなかで、楽くんが三日月形に目を細めた。
「音楽室で弾くときみたいに楽しみなよ」
「楽しむ……。そうだよね、わたし達の最後の演奏だもんね」
いつもわたしが言ってる「楽しむ」って言葉。カンペキ主義な楽くんが、本番前にわたしにそんなことを言うとは思わなかった。
楽くんといっしょにピアノを弾けるのは、泣いても笑ってもこれが最後。
だったら、悔いの残らないように楽しまなくちゃ。
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