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「最後じゃなくて、これが、おれ達の初めての演奏のステージだろ」
緊張で震えていた手足に力を入れるわたしに、楽くんがぽつりとつぶやく。
初めて──。
そっか。これは、まだ終わりじゃないんだ。
そう思ったら少しだけ緊張が解けて、ドキドキがステージへのワクワクに変わる。
期待に胸を鳴らすわたしの手を引いて、楽くんが一歩踏み出す。
「行こう」
舞台袖から出た瞬間、ステージの中央に向かって歩くわたしと楽くんにスポットライトがあたる。
楽くんとタイミングを合わせてお辞儀をすると、わたし達はピアノの前に座った。
譜面台に楽譜を置いて、鍵盤の上に手をのせる。
つやつやとした白い鍵盤に指をのせて深呼吸すると、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
わたしよりもワンテンポ遅れて、楽くんが鍵盤の上に手をのせる。楽くんの、細くて長いきれいな指。それをしばらく見つめてから、わたしは楽くんと視線を合わせた。
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