イントロダクション

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 放課後の音楽室の前で、わたし、春岡(はるおか)結衣(ゆい)は、秋野(あきの) (がく)くんを待っていた。  右手には、ここへ来る前に担任の先生からもらってきた用紙が一枚。それを握りしめてそわそわ、ドキドキしていると、音楽室の掃除を終えた生徒たちがぞろぞろと出てくる。  男女合わせて五人。だけど、おしゃべりしながら歩いていく五人の中に秋野楽くんの姿はない。  おかしいな。楽くんの班は、今日は音楽室の掃除担当だって聞いたのに。  わたしが来る前に帰っちゃったのかな。それとも、まだ中にいるのかな。  ドアの外からそっと音楽室を覗き込むと、真正面の壁に飾られている有名な音楽家たちの絵が目に入る。中でも特に目付きのするどいベートーヴェンが、今日も怖い顔でわたしをにらんできた。  音楽の授業は大好きだけど、音楽室の壁のベートーヴェンはいつも怖い。そっと目をそらそうとした、そのとき。  ポーン、と。ピアノの音が聞こえてきた。
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