イントロダクション

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 とても綺麗で、澄んだ音。  たった一音だけれど、それを弾いた人物はきっと、どれくらいの強さで鍵盤のどの位置を押せばいい音が出せるのかを知っていて、その一音を響かせている。  心臓がドクンと鳴って、用紙を持っている右手の指が少し汗ばむ。  音楽室のドアから見て右奥。そこに置かれた黒いグランドピアノの前に、わたしが探していた秋野楽くんが立っていた。 ピアノの鍵盤に右手をのせた楽くんは、自分の手を見つめてぼんやりとしている。  少し長めの前髪が楽くんの顔に影を落としていて、わたしにはなんだかその横顔がとても寂しそうに見えた。  どうして、ピアノの前であんな顔してるんだろう。  ここにやってきた目的を忘れてそんなことを考えていると、わたしに気付いた楽くんが慌てたようにピアノから手を離した。
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