第7話

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第7話

 課長の視線を引きずりながら一ヶ月ぶりに自分のデスクに着いた。  真っ先に端末を立ち上げて捜一の帳場、『警察官予告狙撃事件特別捜査本部』の捜査状況を確かめる。ホロキィボードを叩き、これもホロのディスプレイを食い入るように見つめた。  しかし刻々とアップされる捜査状況に新展開は何もなく、溜まった署内メールなどを流し読んでデリートした。  いつの間にか定時を過ぎていて、ただでさえ帳場要員として人員を取られ頭数も少ない在署番は潮が引くようにいなくなっていた。幸い今日は何事もなかったらしい。  煮詰まったコーヒーを紙コップに淹れて啜りながらコウは深夜番の二人と暫しテラ本星の話題でダベった。コップが空になると彼らに頭を下げてからデカ部屋を出る。  署から出るとビル風が長めの金髪を揺らした。  ここミントの自転周期は二十六時間二分三十二秒、超高層ビルの谷間から見上げると、まだ青空がしっかり残っている。ビル同士を繋いだスカイチューブにも航空灯は灯されていない。(ムーン)のエーベだけが白っぽく中天に張り付いていた。  こんな異分子のまま、いつまでもいられる訳がない。だが刻を止められ眠り続ける相棒の悔しさを考えると自分だけが進んでしまうのはどうしてもためらわれた。    きっとこの状態が暫く続いてそのうち配置換えにでもなるのだろう。制服勤務の内勤だ。  官舎までは歩いて十分ほど、だがコウはいつも通り病院に足を向けた。 ◇◇◇◇ 「SPですか?」 「そうだ。例の水資源問題で来星するドラール星系の事務次官レヴェル協議、あれが三日後に行われるのは知っているだろう。そこで既にシミュレーションに入っている警備部がSPの厚みを増す決定をし増員をすることになった」  朝一番で課長に呼ばれたかと思えば、またも余所の部署の下請け仕事である。ここ一ヶ月の間もファイル整理でなければ体よく追い払われて、あちこちをビリヤードの球だった。けれど今回は下請けにしては重すぎる仕事だ。  SP、セキュリティポリスは要人警護、それも対象は星系間関係を左右しかねない人物である。そんなところに自分を送っていいのだろうか。チラリとそう考えたが、断るすべはない。 「今日から本格的にパッケージの警護訓練に入るそうだ。誠意、務めてくれ」  パッケージとは警護対象者だということくらいコウも知ってはいたが、幾ら警察官でもSPに関しては素人同然だ。これは苦労しそうだなと思いつつ課長に敬礼する。  反重力装置を備えた垂直離着陸機のBEL(ベル)という緊急機もあったが、コウは一人で一機を飛ばすのも大袈裟かと思い、署を出て無人コイルタクシーに乗った。  広域惑星警察マイネ統合本部までは、この時間なら二十分ほどで着く筈だ。  タイをキッチリ締め直しながら、ふいに結城のことを思い出す。  窓際で覗かせていた象牙色の肌と鎖骨のライン。朦朧としながらも縋り付いた広い背。激しさに同調し揺れていた蒼炎色のピアス。そして体内深く受け入れた結城の熱い激情……。  自分が同性に抱かれるなどとは予想もしない人生を送ってきた。過去に付き合ったのは女性ばかりだ。なのにまさか自分から誘うとは、いったいあれは何だったのだろうと思う。  そして結城が勝手に消していった、コウの『油断』という罪の証――。  ここ一ヶ月、ずっとその意味についてコウは考えてきた。だが結城にとってコウは彼の言葉通りにタダの一夜限りの相手だったのだろう。高度文明圏では名刺代わりのリモータIDすら交換しなかった。故にメールすら届かないのだ。  一人きりのコイル内で自身の呟きを耳にする。 「結城さん、どうして答えもくれずに帰ってしまったんですか……?」
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