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マミもユウコもみんな結婚した
マキは『ブルーワンダー海の国』のオープンと同じ日に、美翠市(びすいし)に生まれた。
家から近かったのと、五つ上の姉がブルワキャラが大好きだったこともあり、海沿いにあるそのテーマパークには家族でよく出掛けた。
幼いマキは生き生きと動く大きなぬいぐるみのキャラクターたちが怖くて泣いた。こんな生き物がいるわけない。でも動いている。
ヤシの木の道、ベビーカーの灰色のサンシェード、野球を見ない父親のベースボールキャップ。それらがマキの持つ、最も古い記憶。
あれからロケットでピューンと時を飛んできたみたいに、大人になって、
「ブルーワンダーは、二十五周年!」
周年イベントを告げるテレビコマーシャルの声。このときはまだ、マキも余裕があった。私も25周年だと言いふらす元気もあった。
「ブルーワンダーは、三十周年!」
「うるさいなぁ」
五年後――
「ブルーワンダー。三十五周年アニバーサリー」
「三十五周年!」
「三十五周年の特別な体験を!」
「連呼するな!」
さらに五年後――
「ブルーワンダーは、今年で四十周年を迎えました!!」
「バァァァーー!!」
ぶち切れてテレビを消した。微妙にリモコンの利きがわるいのも腹が立つ。
若者のテレビ離れというが、マキもほとんどテレビをつけなくなった。
マキの周囲は、結婚出産ラッシュがすっかり落ち着いて、友人知人からの「ご報告」便りがとんと届かなくなっていた。
仕事は在宅勤務でほか社員とのつながりも薄く、仕事関係で呼ばれることもない。
もう華やかな場に招待されることもないだろうと、ついこの前、パーティドレスと靴を手放した。年齢的にもう合わないデザインだし、おなかや太もも周りが豊かになってきて、着用できるかだいぶ怪しい(試すのはやめておいた)。
親しかった同級生の中には、娘が中学生になり、ラインのアカウントを母親と共同で使っているらしい人もいる。そのアカウントから母親(友達)の気配が消えて、名前もアイコンも壁紙も娘に成り代わっているのを見て、自分が足先からそっと消えていくような恐怖を感じた。
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