狂った悪魔

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狂った悪魔

 「綾人」  和哉は俺にキスをした。  抱く時にしていた噛みつくようなキスではなく、触れるような軽いキスを。  キスが終わると和哉は俺に現状を突きつけてくる。  「母さんは俺を、日和さんは綾人を売った。俺たちは2人が結ばれるためだけに捧げられた生贄なんだよ」  ああ、そうだな。  だから俺たちは2人に怒っていい権利がある。  恨んだっていいはずだ。  なのになんで······お前は嬉しそうに笑っているんだよ。  「本当に良かったよ。日和さん、なんの未練もなく綾人を俺にくれたんだ。俺は今、最高に幸せだよ······ねぇ、綾人も嬉しい? 今、幸せ?」  「······!!」  こいつ、正気か······!?  無理矢理抱かれて、実の親に売られて、お前に買われて······  そんな俺が今嬉しそうに、幸せそうに見えるのか······!?  「······る······て······」  「ん?」  「狂ってる······! お前も、彩さんも、母さんも、皆······!!」  そのあと、俺は思いつく限りの暴言を和哉に吐いた。  もう、お前なんか絶交だ!!  幼なじみでも親友でも、互いの母親がどうであろうが関係ない!!  そしてなんとか逃げようと手錠をガチャガチャ動かす。  そんな俺を見て和哉は口を開く。  「狂ってる、か······そうだね。俺はおかしい奴だ。これがひどいことだって、本当はわかってる」  「なら──」  「でもいいんだ。だって、俺には綾人が必要だから。俺の大切な幼なじみ(恋人)。綾人がいるなら、たとえ狂っていても幸せだよ」  和哉は俺の左胸に手をそっと置く。  ただそれだけなのに、まるで心臓が掴まれたかのような恐怖が俺を襲った。  「さぁ、綾人。また俺と愛し合おうか」  口角を上げて笑う和哉はまるで悪魔のようだった。
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