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幼なじみだから
それはまだ、俺─三好綾人と和哉がただの幼なじみだった頃の話
「なぁ、お前と新村って昔からあんな感じなのか?」
「『あんな感じ』って?」
俺は弁当に入っていた、最後の綺麗な形の甘い卵焼きを口に入れる。
目の前では同じクラスで友達の前田は購買で買ったパンを食べていた。
俺はそんな前田の言葉に首を傾げるしかない。
前田は呆れたように言いながら指を折っていく。
「毎朝一緒に登校、弁当は毎回新村の手作り、俺やほかの奴らと出かけたら1時間に1回は連絡、忘れ物したらたとえ体格の差が激しくても体操着を借りる、スマホのロック画面と待ち受けはお前ら2人のツーショット······どこのバカップルだと言いたくなるこれは昔からか?」
「ああ。幼なじみだし普通だろ? いやでも、和哉は忘れ物はしないから体操着借りるのは俺だけだ」
「それは威張って言うな! てか、普通じゃないから!」
屋上に俺ら2人しかいないからって叫ぶなよ。
俺はそう思いながら空になった弁当箱の写真を撮って和哉に送る。
「変って言われてもさ、なんかそれが普通になってるんだよな」
「幼なじみってそういうもんなのか······」
「母さんも和哉の母親も、おかしいなんて1度も言わなかったしな」
俺と和哉は幼なじみだ。
お互いの母親が親友で、俺たちは赤ん坊の頃から一緒にいた。
そしてそこから幼稚園・小学校・中学校・高校まですべて同じ。
まぁ······
「さすがにこれからの進路は違うぞ」
「マジ? 意外だな」
「仕方ないだろ。不動の学年1位と万年真ん中の頭だと、高校までが限界だ。あと、経済事情ってものがある」
「なるほどな。そーいや新村って、大企業の御曹司でこのままいけば社長なんだっけ?」
「そ。だから大学は、経営学部に行くって前から言ってた」
もう、高3の5月。
和哉はかなり前から行くと決めた大学があり、俺は経済事情を考えて短大を受験生する。
だから高校を卒業すれば、今ほど一緒にいる時間はないんだろうな。
「じゃあ三好、それを機に幼なじみ離れでもしたら?」
「え?」
「さすがにいつまでも新村にベッタリなのはやめた方がいいぞ。お前、新村がいなくなってなにもできなくなったらどうする? 困るのはお前の方だ」
「困るのは俺······」
「別に関わるなとかは言わないけどさ、新村とは適切な距離を目指した方がいいぞ」
和哉と適切な距離······
考えたこともなかった。
でもたしかに、前田の言葉にも一理あるよな。
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