冷たい目

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冷たい目

 その日、俺は制服のまま和哉の家にきた。  目的は来週の中間テストに向けて勉強を教わるため。  「······解けた~!!」  難関だった英語の問題が終わり、俺は折り畳み式の机に突っ伏す。  和哉はそんな俺に笑いながらサラサラと赤ペンで採点していく。  「うん。よくできてるよ、綾人」  「マジ!?」  「うん。あとはテスト当日、緊張してスペルミスさえしなければ順位はかなり上になると思うよ」  「それは当日次第だな。でもやっぱ、学年1位の和哉のカテキョのおかげだわー」  そうじゃなきゃ、英語なんて絶対赤点だ。  ほかの教科はなんとかなるんだけど、英語がなぁ。  「ほんと、優しい幼なじみがいて俺は幸せだな」  「はいはい。おだててもジュースとケーキしか出ないよ」  「和哉、サイコー」  そんなことを言いながら休憩タイムとなり俺はイチゴのケーキ、和哉はティラミスを食べる。  いつものように和哉の隣に引っ付きケーキを食べている時、俺は前田の言葉を思い出した。  幼なじみ離れ、か······  「なぁ、和哉」  「ん?」  「今さらだけどさ、俺に勉強教えてて大丈夫な訳? たしかお前が受ける予定の大学って、難関で有名なとこじゃん」  和哉がいないと英語の赤点は回避できないだろう。  だけど、和哉にだって受験がある。  たとえ学年1位だろうがそこは関係ない。  いつも頼ってばっかだけど、そろそろ控えた方がいいかもしれないよな······  もし前田の言う通り、このまま和哉なしだと生きていけなくなったら困る。  「さすがにそろそろ悪いし、勉強教わるのはやめ──」  「それ、誰の入れ知恵?」  「っ!」  背筋がゾッとし、俺はひどく戸惑った。  だって、見たことなかったから。  和哉があんな、冷たくて暗い目をするなんて······  「ねぇ、彩人」  和哉は机にケーキとフォークを置き、俺の肩を掴む。  その力は思った以上に強く、俺が持っていたケーキとフォークが床に落ちる。  「ちょっ、床······! 急いで拭かないと」  「そんなことはどうでもいいよ、彩人」  床が生クリームで汚れたのに和哉はまったく気にしていない。  和哉のその目は俺以外を映していなかった。  「俺から離れるつもり? 学校の女子にでもなにか言われた? 中学の時みたいに、俺と付き合えないのは綾人のせいってイチャモンでもつけられた?」  いや、全然違う。  でもたしかにそんなことが中学の時あった。  『新村くんは迷惑してるんだよ。あんたが金魚の糞みたいにいつも傍にいるから彼女が作れないって』  それを真に受けたは俺は和哉と距離を取った。  あのあと和哉と軽くケンカをしたが、そんなことは思っていないとわかり仲直り。  そーいや、そんなことを言ってきた女子とその取り巻きたちを学校で見かけなくなったような······  「ねぇ、綾人。正直に言って。男? 女? 学年もクラスはわかる?」  「あっい、いや、違う······」  俺は首を振って否定する。  「た、ただちょっと、お前に頼りすぎなんじゃないかって、思っただけで······」  前田の言葉がきっかけ······とは言えない。  なんか、言ったらダメな気がする。  和哉に言ったらひどく後悔しそうな、そんなよくわからない予感が······  「本当に?」  「本当だ」  俺と和哉はしばらく見つめ合うことになったが、和哉は笑った。  「······そっか」  和哉はようやく納得したのか肩から手を放してくれた。  「安心して、綾人。これは俺が好きでやってることだから、綾人が気にする必要はないよ」  「そ、そっか······」  和哉はいつも通りの優しい笑みを浮かべていた。  だけど······  「床、早く掃除するね。綾人のケーキダメにしちゃったから、俺のティラミスあげるよ」  「じゃあいつもみたいに、半分こで······」  和哉の目はまだどこか冷たかった。
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