初めてのラブレター

1/1
前へ
/9ページ
次へ

初めてのラブレター

 最後になると声は小さくなっていくが、それでもちゃんと全部聞こえた。  やっぱ、和哉は······ん?  「······え、ええぇっ!? 俺!? 和哉じゃなくて!?」  動揺した俺に彼女は何度も頷く。  彼女の潤んだ目で俺を真っ直ぐ見つめていた。  俺はおそるおそる差し出されたラブレターを受け取る。  「え、えっと、その······驚いて、悪い。俺、ラブレターの配達は任されたことはあっても、もらったことなんてなくて······」  男としてかなり悲しく情けない現実だが、見栄なんて張る余裕するない。  きっと和哉なら気のきいた言葉の1つや2つ出るだろうが、生憎俺は人生初の告白をされているんだ。  余裕よりも戸惑いが勝ち、俺はあたふたするしかない。  彼女もそんな俺を見て同じくあたふた。  「きゅ、急にごめんね······いきなりだし、迷惑だよね······」  「い、いや、そんなことはない! 俺、告白されるのは初めてで慣れてなくて······」  「そうなんだね······私もね、初めて告白したの」  そう言った彼女の手は震えていて、きっと勇気を出して告白をしてくれたんだろう。  遊びや罰ゲームとかではないとよく伝わった。  「あのさ、返事は後日でいいかな······? ちゃんとしっかり考えたいから······あっもちろん、卒業までには返事するから!」  「う、うん。返事はいつでも大丈夫······!」  彼女は俺にペコペコしながら帰っていった。  そのあとも俺はその場から動けなくなった。  手には桜色の可愛らしい封筒の手紙。  「告白、されたのか······」  いつもモテるのは和哉だった。  そして毎回、俺がいいなぁと思った女子は和哉のことが好きになっていた。  俺は和哉の隣にいる人間······それが女子たちの扱いだった。  別に告白したいほど好きだった子がいたかと聞かれると微妙だが、俺は少しだけ和哉が羨ましかった。  1人でいい。  俺も誰かの特別になってみたいと思っていたから······  「綾人」  「っ! 和哉······」  名前を呼ばれビビったが、すぐに和哉だと気づいた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加