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初めてのラブレター
最後になると声は小さくなっていくが、それでもちゃんと全部聞こえた。
やっぱ、和哉は······ん?
「······え、ええぇっ!? 俺!? 和哉じゃなくて!?」
動揺した俺に彼女は何度も頷く。
彼女の潤んだ目で俺を真っ直ぐ見つめていた。
俺はおそるおそる差し出されたラブレターを受け取る。
「え、えっと、その······驚いて、悪い。俺、ラブレターの配達は任されたことはあっても、もらったことなんてなくて······」
男としてかなり悲しく情けない現実だが、見栄なんて張る余裕するない。
きっと和哉なら気のきいた言葉の1つや2つ出るだろうが、生憎俺は人生初の告白をされているんだ。
余裕よりも戸惑いが勝ち、俺はあたふたするしかない。
彼女もそんな俺を見て同じくあたふた。
「きゅ、急にごめんね······いきなりだし、迷惑だよね······」
「い、いや、そんなことはない! 俺、告白されるのは初めてで慣れてなくて······」
「そうなんだね······私もね、初めて告白したの」
そう言った彼女の手は震えていて、きっと勇気を出して告白をしてくれたんだろう。
遊びや罰ゲームとかではないとよく伝わった。
「あのさ、返事は後日でいいかな······? ちゃんとしっかり考えたいから······あっもちろん、卒業までには返事するから!」
「う、うん。返事はいつでも大丈夫······!」
彼女は俺にペコペコしながら帰っていった。
そのあとも俺はその場から動けなくなった。
手には桜色の可愛らしい封筒の手紙。
「告白、されたのか······」
いつもモテるのは和哉だった。
そして毎回、俺がいいなぁと思った女子は和哉のことが好きになっていた。
俺は和哉の隣にいる人間······それが女子たちの扱いだった。
別に告白したいほど好きだった子がいたかと聞かれると微妙だが、俺は少しだけ和哉が羨ましかった。
1人でいい。
俺も誰かの特別になってみたいと思っていたから······
「綾人」
「っ! 和哉······」
名前を呼ばれビビったが、すぐに和哉だと気づいた。
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