恐怖

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恐怖

 「か、和哉······悪い、待たせすぎたな······」  「いいよ、気にしてないから」  「そうか······」  「ほら、早く帰ろうか。2月の放課後はよく冷えるからね」  「ああ。じゃあ、帰るか」  俺と和哉は並んで一緒に帰る。  その途中、俺のスマホに母さんからメッセージが届いた。  【今日は(あや)と食事に行ってきます。だから夕飯は和哉くんと食べてなさい】  彩さんというのは和哉の母親の名前。  今でも仲が良い2人はこうしてなんの前触れもなく、食事に出かけたりする。  うちはシングルマザーで、和哉の父親は仕事でいつも家にいない。  なので毎度、俺は和哉の家で2人きりの晩飯をいただくことになる。  そこに不満は一切ないので俺はいつものように和哉の家に行った。  「ごちそうさま。やっぱ、和哉のメシはうまいなぁ」  「そう言ってもらえて嬉しいよ。綾人のためだけに料理の腕を上げたんだから」  「おいおい」  空いた皿をシンクに運びながらそんなことを言う和哉に俺は苦笑した。  「そこは彩さんのためって言えよ」  俺のためだけなら彩さんに申し訳──  「それはないよ。だって母さん、ほかに好きな人がいるから。俺はいらないからね」  「え······」  ほかに好きな人って······  淡々とした和哉のその言葉に俺は驚いた。  いや、嘘だろ······  だがよく見ると、和哉の顔色はあまり良くなかった。  「······ねぇ、綾人。相談したいことがあるから今日は泊まってよ。今から俺の部屋にきて」  俺は迷わず頷いた。  このまま帰る選択肢なんてまったくなかったから。  すぐに和哉の部屋に行くと、後ろからガチャッと鍵をかける音が響いた。  和哉?  「ねぇ、綾人。さっき告白されたよね? いつもの伝言じゃなくて、和哉に向けての」  「っ!?」  相談ではなくそんなことを入って早々言われ、俺はぎょっとした。  聞いてたのかよ······  「返事、どうするの?」  「あー······実はさ、付き合おうかなって考えてるんだよな」  彼女のことは前々から好感を持っていた。  仕事は丁寧で親切だし、彼女となら良い関係を築けると思う。  初めての告白で舞い上がっているだけかもしれないが、彼女のことをもっと知りたいと思ったのもある。  「あの子、俺なんかこと好きって言ってくれたんだ。すっごく嬉しかったし、彼女とならうまく付き合え······」  俺は言葉を失ってしまった。  なぜなら和哉は、すっかり忘れていたあの冷たくて暗い目をして俺を見ていたから······  いや、目だけじゃない。  表情も雰囲気もどこか暗く、尋常ではない。  和哉が別人のように感じる······  「か、和哉······?」  「······そんなこと、許せる訳ない」  「ちょっ······!?」  突然腕を引かれ、俺はベッドに倒された。  そして和哉は俺の上に乗り、体を押さえつける。  「いたっ! 和哉、放せ!! 重いし痛い!! どけって!!」  俺は痛みに顔を歪めながら文句を言うが、和哉はスルー。  「あーあ。本当は大学までなら自由にさせてもいいかなって思ってたのに。でも、綾人がその気なら仕方ないね」  「はっ······?」  「まぁ、俺は早い方が嬉しいからいいか。()()()()()も喜ぶし。ずっと本命と結ばれて自由になることを望んでたんだから」  「な、なにを言って······」  和哉とケンカしたことはあるが、こうやって体を押さえつけられたことなんてない。  痛みを与えられてことだってない。  こんな風に話が通じないことも、無表情で見下ろされたこともなかった。  「あ、あ······」  恐怖で体が震え、涙が出てきた。  すると和哉はその涙をねっとりと舌で拭う。  「ひっ······!?」  「ねぇ、綾人。これからずっと、俺のためだけに生きて」  和哉の無駄に整った顔が視界いっぱいに入った。
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