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プロローグ
男同士の幼なじみ。
それは兄弟よりもずっと仲が良く、固い絆の友情で結ばれた関係。
10年以上、俺はあいつと一緒にいた。
俺のことを1番知っているのはあいつで、あいつのことを1番知っているのは俺。
きっと就職しても、どちらかが結婚してもこのままなんだろう。
だって、俺たちは幼なじみなんだし。
『やっぱ、ここの桜のトンネルは綺麗だよな』
『そうだね。毎年の恒例行事だけど、いつ見ても変わらない』
『だな』
俺はあいつ─新村和哉に言った。
『なぁ、和哉。来年も再来年もその先もさ、お前とこの桜のトンネルを歩けるといいな』
風が吹き、桜の花びらが舞う。
俺の言葉に和哉は······
「············んぅ······」
目を開けるとそこに桜はなく、視界に入ったのは白い天井。
隣にいた幼なじみである和哉はおらず、部屋には俺しかいない。
「懐かしい夢を見た······」
俺は痛む頭であの日のことを思い出す。
あれは今から高校2年の3月の末のこと。
4月から受験生で、たとえ大学が違っても疎遠にならないようにという願いが込めて。
だが、それは次の年から叶わなくなる。
疎遠にはなっていないが、俺はあれからあいつと桜を見ていない。
いや、見られなくなったが正しいな······
「············おい、クソ和哉。聞こえてるだろ」
俺は誰もいない部屋で和哉を呼んだ。
端から見たら頭のおかしい奴だが、俺は知っている。
この部屋にはいないが、和哉は俺のことを見ているし聞いていると。
「おやつに三色団子といちご大福が食いたい。帰りに買ってこい」
この広い部屋の内装はシンプルだ。
小さな本棚。
綺麗な黄緑のカーテン。
しっかりとした作りの椅子とサイドテーブル。
部屋の真ん中に置かれたキングサイズのベッド。
「昨日散々ヤッたんだから、文句は言わせねーぞ」
······だが、異常な部屋でもあった。
頑丈な南京錠で閉じられたタンス。
カーテンで隠れているが窓は嵌め殺しにされていて開閉不可。
ベッドの端には1本の長い鎖が繋がっており、先をたどればそこは俺の左足がある。
「あとさ、久しぶりに桜が見たい。見せろ」
もしまた一緒に桜を見たら、お前は目を覚ましてくれるかな······
そしたらまた、俺たちは仲の良い幼なじみ戻れるかな······
俺はそんな願望を抱きながら目を閉じた。
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