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幽霊の散歩
夕顔にさした月灯り
真っ白な蛾の羽根は美しく
チラチラと
大きな目で私を見ている
尻尾の先が割れた猫と
細い竹でじゃれる
爪の先が赤く
今日は満腹
風鈴だとばかり
カチンカチン涼しい踏切
違ったけど美人な
そうめんを捨てる路地裏のママさん
店の名は君と同じ
ウィスキーを買う
欠けたグラスは
誰かが家に置いていった
アデリアのオレンジの花
奇妙なデジャブとだけ
名付けたはずの
今では大切な
鍵の回る音をだいぶ待って
そっけない「お帰り」は嘘で
寂しそうな頬は痩せていて
まばたきの覆う水晶体に触れたい
キスして
駆け寄って抱きしめて
話したいんだ
今日の何気ないことの全部を
聞いて欲しいんだ
笑いながら、笑いながら、笑顔で笑顔で笑顔で
ほのかな熱を忘れないで
疲れていないかい?
南色の風を探す
君の濡れた髪は
やかましい街の匂いを
誤魔化しもしない
私はこぶしを握って
爪先を畳みにひっかけた
ひたいと布団は愛し合う
ごろんとすれば
やわらかいから
君とあとで愛し合う遊びをする為の布団で
そんな布団で
大事な布団で
私はまるくなる
縮こまる
こっち来てよ
ほんものにしてよ
消えてしまうよ
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