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「CT検査とか受け答えの検査をして、確認したんやけれども、えー、どこにも外傷はありませんでしたわ」
「よかったー!」
「ただし」
先生は、わたしを見て釘を刺した。
「今回、咲良ちゃんが病院に運ばれたんは、頭を強く打ったことによる脳震盪が原因なんよ」
「のうしんとう?」
「脳震盪っちゅうのは、頭への衝撃によって起きる、一時的な意識障害や記憶障害のことですわ」
先生は頭の写真を指さす。
「その障害は、今は何ともなくても、時間が経ってから体に現れる可能性もあるわけや。そやから、これから24時間は絶対安静。オッケー?」
先生が話しているのはどこの方言か分からないけど、淡々とした口調は、わたしを突き放しているようにも聞こえた。
「──あの、わたし、明日も試合があるんですけど、出ちゃダメですか?」
「何を言っとるんだい、君は。ダメに決まっとるでしょうが。まして試合やなんて。試合に出るのは、リハビリをやって、問題無いって判断してからや。それまで許可できませんわ」
「え? リハビリしないと試合出られないんですか? いつまでかかるんですか?」
「咲良ちゃんの場合はなー、まだ体が小さい子供であることと、学校にも行かにゃあかんのとで、2ヶ月はかかるでしょう」
──そんなに長い期間休んでいたら、夏の大会が終わっちゃう!
「なんとかなりませんか? 薬とか」
「痛み止めの薬は一応あるけど、血液が固まる恐れもあるし使えんわ。それに脳震盪は、何回も経験すると、後遺症が残ったり死に至ったりもする恐れもあるし。もう二度と脳震盪にならんようにせなあかんわけや」
「……、……わがまま言って、ごめんなさい」
「いやー、咲良ちゃんの気持ちは、よお分かる。そういう患者をたくさん診てきたでなあ。でも僕は、『こんなになるまで諦めずに、よく頑張った』って、咲良ちゃんみたいな患者を診る度に思うんですわ」
次の試合も、もちろん出たかった。
でも、わたしの全てを出し尽くした結果だから仕方ないと割り切ったら、意外に気持ちは晴れやかになった。
「親御さんは、この子の様子を常に注意深く見てあげてね。今は何ともなくても、後になって突然倒れたりする場合もありますんで」
「分かりました」
わたしの後ろから、お母さんが返事をした。
振り返ると、詩織さんも頷いていた。
「今日はもう、帰ってもらってオッケーですわ。お大事に」
先生はわたしに手を振った。なんだかんだ、親しみやすい先生だった。
わたしたちは病院を出た。
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