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目が覚めたら、わたしの上には白い天井があった。
知らない場所。少し薬っぽいような、真面目な匂いがする。
「咲良!」
声のする方を向くと、心配そうな顔をしたお母さんがわたしを見ていた。
「よかった! もう、ずっと目を覚まさないから、心配で心配で……」
お母さんはわたしに抱きつこうとしたけど、隣に座っていた詩織さんが手で制した。
「美咲、もう少し我慢した方がいいわ。脳が揺れたら良くないと思うから」
お母さんは小さく「ごめん」と言い、座り直して涙を拭く。
「ここ、どこ? わたしの脳が、どうかしたの?」
わたしが訊くと、詩織さんが不安げな表情で言った。
「ここは病院よ。試合が終わった後、咲良は気を失って倒れちゃったの」
──そうだ! 試合は!
慌てて跳ね起きようとしたわたしを、詩織さんが止めた。
「落ち着いて、咲良!」
詩織さんはため息をつく。
「あなたたち親子は本当に……」
「咲良、何も覚えてないの?」
お母さんが心配そうな顔でわたしに訊いた。
「うん、ずっと寝ちゃってたみたい」
お母さんと詩織さんは顔を見合わせた。
「ねえねえ! 試合はどうなったの⁉︎」
お母さんが口を開いた。
「試合は──」
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