夏の大会、開幕!

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          ・  あかりちゃんにパスを出した後、背中からコートに倒れた咲良は、目をつぶったまま動かなくなった。  試合は中断され、ベンチを飛び出したチームメイトは、咲良を囲うように集まった。 「咲良!」  私は思わず叫ぶ。  私の横では、詩織が口を両手で覆い、過呼吸になりかけている。 「詩織、咲良のところへ行こう」  観客席からコートまで降りようと、私は詩織の手を握って立ち上がる。  その時、コートに倒れこんでいた咲良が、むくっと起き上がった。  そして私たちの方を真っ先に見ると、グーサインを出した。心配するなと言わんばかりにすぐ立ち上がり、跳んだりストレッチしたりを繰り返す。  谷垣先生に何かしら確認された咲良は、観客席にも聞こえるほどの声で「やりたいです!」と言った。「最後まで出させてください! お願いします!」と、谷垣先生に勢いよく頭を下げる。  谷垣先生は咲良の耳元で何か言った後、咲良を取り囲んでいたチームメイトを引き連れて、ベンチに戻っていった。  私は咲良を心配しつつも、伝わってくる熱意に気圧されて、自分の席で立ったまま動けなくなった。  試合再開のホイッスルが鳴ると、保護者や応援に来ていた生徒たちから拍手が沸き起こった。周りを見ると、全員立ち上がってコートに熱い視線を送っていた。  その視線の先にいる咲良は、誰よりも大きく見えた。  試合時間は残り2分。  咲良たちのチームは2点のリードで、到底安心できない点差だ。  その矢先、相手チームのロングパスが通り、あっという間に同点に追いつかれた。咲良が倒れたこともあってか、試合の流れは相手チームに傾きかけている。  それから、点を取られては取り返しを繰り返し、一時は同点になった。  しかし、体格で勝る相手チームのスリーポイントシュートが決まると、点差は5点差まで開いてしまった。  残り30秒。  相手は守りに入る。ゴール下を固めて、得点力の高い咲良とあかりちゃんには徹底したマークがついた。  しかし、あかりちゃんが先輩にパスを回すと、その先輩はディフェンスをかいくぐってスリーポイントを決めた。  残り2点差。  残り20秒。  リードしている相手チームは、「オフェンスは24秒以内に攻撃をしなければいけない」というルールを利用して、オフェンスをしつつもボール回しを始めた。ボールを奪わせないように守りつつ隙があれば得点を狙いに行く腹積もりのようだ。  咲良たちのチームは、なんとかボールを奪おうと、全員でボールを追いかける。  残り10秒。  あかりちゃんが相手チームのパスに手を伸ばし、なんとかカットした。  コート中央を転がるボール。あかりちゃんはそのボールにしがみつく。  相手チームの選手もボールを奪うのに必死で、あかりちゃんに覆いかぶさる。あかりちゃんはボールを死守するが、ボールは股の下に転がった。  相手選手は、あかりちゃんを跳ね飛ばしてボールを奪いにいく。  しかし、そこには咲良がいた。  残り5秒。  ボールを持った咲良。  その目の前には、迫ってくる二人の大柄な相手選手。 ──奪われる!  その時、咲良はレッグスルーをしながら自ら距離を詰めると、片方の相手選手の股下にボールを通し、二人の間を縫うようにして抜き去った。  残り1秒。  相手チームの守りは手薄。  しかし時間が無い。  センターラインを越えた咲良は軽くステップを踏む。  そして、高弾道のシュートを思い切り放り投げた。    試合終了のブザーが鳴る。  ボールはまだ空中にある。  つまり、このスリーポイントが決まれば勝利。外れれば負け。  この体育館にいる全員が、咲良の放ったボールの行方を見守る。  詩織と繋いでいる手に力が入る。 ──行け! 入れ! 「いっけー!」  咲良の声と共に、ボールはリングに伸びていく。  ゴンッ──!  体育館の時間が、一瞬止まった。  バックボードのウインドウ内に直撃した咲良のシュートは、そのままリングに吸い込まれたのだ。
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