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「勝った……」
思わずつぶやくと、詩織が反応した。
「勝ったの? 本当に勝ったの?」
「うん……、咲良が決めたよ! 逆転の、ブザービート!」
私たちは抱き合って、喜びを分かち合う。
一瞬の静寂に包まれていた体育館は、ボールがコートに落ちてきた瞬間、爆発的に歓声が沸き起こった。
相手チームは全員膝から崩れ、泣きだす選手もいた。
咲良たちのチームは、全員がベンチから飛び出し、咲良を取り囲んで祝福した。
審判は、少しコート内を見渡してほとぼりが冷めるのを待った後、整列の号令をかけた。散らばっていた選手たちは、各チーム一列ずつ並んだ。
「ありがとうございました」
選手みんなが揃って礼をしたとき、鈍い音がした。
「咲良!」
私と詩織はコートに向かった。
咲良が前のめりに倒れてしまったのだ。
私たちがコートに降りた頃には、審判とチームメイトたちが応急処置をしてくれていた。
取り囲む人の数が多くて咲良の元に近寄れずにいると、すぐに谷垣先生が私たちのところに走ってきて、深々と頭を下げて謝罪した。
「本当に申し訳ございませんでした」
顔を上げた谷垣先生は、顔色が真っ青だった。
「最初に倒れた時、私が止めていれば……。今、救急車を呼んだのですが、到着までにまだ少しかかるそうで……」
谷垣先生が生徒思いの先生だということは、咲良からの話で知っている。彼女が悪いだなんて、私は少しも思わなかった。
「いえ。咲良が選んだことですから。誰にも譲らず、自分の意思で戦い抜いた咲良を褒めたいです。それに、いつも元気な咲良なら、絶対に大丈夫です」
谷垣先生が電話してくれたおかげで、思ったよりも早く救急車が到着した。
体育館は物々しい雰囲気に包まれた。
ストレッチャーで運ばれる咲良を、敵味方関係なく、その場に居合わせた全員が見守っていた。
私と詩織は、ずっとストレッチャーの横に張り付いていて、そのまま病院まで同伴した。
病院に運ばれる途中、救急車の中で一度目を覚ました咲良は、救急隊員の問いかけにはっきりと応えていた。
病院に着いたら緊急の検査が行われた。
私と詩織は検査室の前でただ大人しく座っていたが、すぐにお医者さんが現れて、命に別状は無いことと、脳への損傷は見当たらないことが知らされた。
ストレッチャーに乗せられて検査室から出てきた咲良は、穏やかに寝息を立てていた。そのまま病室に運ばれ、ベッドに移された。
お医者さんが言うには、疲労などがあって寝てしまっているだけなので、しばらくすれば目を覚ますだろう、とのことだった。
「お子様が目を覚ましたら再検査をするので、そのときはナースコールを押してください」それだけ言い残して、お医者さんは立ち去った。
どうやら異常は無さそうで、私と詩織はベッドの横の椅子に座って胸を撫で下ろした。
それから少しして、咲良は目を覚ましたのだ。
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