夏の大会、開幕!

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          ・  第4クオーターのラストに起こった出来事について、お母さんが全部話してくれた。  わたしが試合を決めたなんて、とても信じられなかった。  なんだか他人の話を聞いてるみたいだった。  でも、興奮気味に話すお母さんと、たまに相槌を打ちながら話に耳を傾ける詩織さんの嬉しそうな様子を見たら、本当にわたしが決めたんだっていう喜びが、じわじわ湧いてきた。気を失ってでも試合に出続けてよかったと思った。  お母さんがわたしに「どう? 思い出した?」と尋ねた。 「ううん。やっぱりわたし、なにも覚えてないよ。頭打って忘れちゃったみたい」 「そんな……」 「でもね! それでも起き上がってシュート決められたのは、二人が応援してくれたからだって思うよ!」  するとお母さんは、わたしの手を握った。 「咲良がシュート決める度に、私、咲良が立派に育ってくれてよかったって思ってた」 「──おおげさだよ、お母さん」  でもお母さんは首を振り、声を震わせながら言った。 「何もしてあげられないし、頼りない母親だけど、咲良が私の娘でいてくれて本当によかった。それだけは自信を持って言えるよ」  お母さんのハンカチから、拭いきれなくなった涙が零れる。  わたしも目の奥が熱くなってきて、気付いたら涙が溢れていた。 「──あのね、実はずっと、バスケうまくいってなかったの。でも、いつもお母さんがそばにいてくれたから、わたし、バスケ頑張れたよ! ありがとう」  お母さんは、うんうんと頷きながら、わたしの頭を優しく撫でる。 「お母さん! 帰ったらお母さんのハンバーグ、また食べたい!」 「もちろんいいよ。今日はたくさん頑張ったもんね。でも、その前に検査があると思うから、それが終わったらね。ちゃんと無事だったら、一緒にお祝いしよう」 「うん!」  お母さんがナースコールをすると、すぐに病室に看護師さんが入ってきて、わたしは検査室へ案内された。体に異常が無いか診るためらしい。  何やら頭をスキャンされた後、白髪のおじいちゃん先生から生年月日や名前を聞かれて、検査室を出た。  検査室の前ではお母さんと詩織さんが座っていた。  すぐに診察室に呼ばれて、今度はお母さんと詩織さんも一緒に入った。  わたしたちが診察室に入っても、さっきのおじいちゃん先生はわたしの頭の写真を見ているだけで何も話さない。  緊張感が漂う。  悪い知らせだったらどうしようかと思ってしまう。  しばらくして、頭の写真からわたしたちの方に視線を移した先生が、口を開いた。
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