アキと私

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 アキはかなり怪訝そうな顔をしたけれど、雨脚の強さと私の傘を交互に見て、おとなしく傘へ収まった。 「いいかげんであることにも、いい面があるんだな」  傘を持っているいきさつを話した私に、歩き始めてからずっと黙っていたアキがやっと口を開いたときの言葉が、これだった。  最初はむっとしたけれど、「ああ、ごめん。変な意味じゃなくて」と続けたアキの感心したような顔と言葉におかしくなって、胸にわいた怒りはすぐに消えてなくなった。  雨降りというのがよかったんだと思う。その日の雨はよくもわるくもすごく強くて、周りから独立した空間を傘の中に作った。  それほど大きくはない赤い傘の中は、不思議と静かだった。今話すことはここ限りで、誰にも聞かれないしどこにも漏れない。別にそう誓いあったわけじゃないけど、私もアキも、確かにそんな感覚を共有していた。  アキは話してみると、理屈っぽいけれど、なんとも潔い人間だった。  変わりものだし、はっきりしすぎる物言いは、いやな感じに聞こえることもある。だけど、決して相手を下に見ているわけではなくて、本心を隠す術を、黙る以外に知らないみたいな不器用さがあった。
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