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「で、鹿乃子、正直なところ、どうなの?」
「どうって?」
杏華の言わんとしていることの見当はついているものの、もう何度目か数えるのも面倒くさい問いかけに、私はお弁当のチキンナゲットを口へ運びつつ適当に返した。昼休みが終わるまであと二十分。五時間目の授業は宿題のない生物だし、このやりとりから逃れる術は、経験上、残されていない。
「小田くんのことに決まってるじゃん」
にやにやという擬音がぴったりな、杏華の顔。はいはい、待ってました。
半ばヤケになりつつ、私は口も滑らかにお決まりの台詞を口にした。
「アキは友達」
「……で?」
「うん?」
「そのこころは?」
「ないよ。友達は友達」
この国には、性別の違う人間が二人セットでいると、そこに恋愛関係を証明しようとする厄介な性質がある。もしかしたらほかの国でもそうなのかもしれないけど、日本生まれ日本育ちの私に検証する方法はないから、とりあえず日本に限っておく。とにかく、高校に入学してからというもの、それは私の周りで顕著になり、私の友人の杏華は、アキこと小田秋と私の関係を勘繰ることに、なぜか執念を燃やしている。
「あ、ほら小田くん。ひとりでお昼なんて、クールだねえ」
アキは、杏華のはしゃいだ声をびしゃびしゃに浴びせられている私とは対照的に、嘘みたいに涼しげな仕草でお弁当のふたを開けた。
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