2章

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 バッファローは牛のキーホルダーとして、認めてもらえなかった。法凜の理論でいくと食用の牛も駄目で、乳牛しか、牛のキーホルダーとして認められないということだ。食用はまだしも、バッファローが駄目だとなると、さらに捜索は難しくなるだろう。  その事実は、家に帰ってからも重たくエミカにのしかかった。  もちろん食用の牛よりは見つかりやすいとは思うが、はたして乳牛のキーホルダーをしている男性なんているのだろうか? 確率的には、メロン柄のワンピースを着ている女性よりも珍しいのではないか、とさえ思った。それにメロンは、好きと公言する人が比較的多い。柄的には珍しいが、見た目としてはかわいいので、そのデザインを着ることがまだわからないことはないはずだ。  一方、牛乳は好きでも乳牛が好きな人はいないのではないか。いるとすれば、牛に囚われて生きている人くらいしか、可能性はないのではないか。そう、牛に囚われて。   何かが引っ掛かった気がした。  牛に囚われている……?  そこでエミカはピンと来た。  そうだ、牛に囚われている人なら、牛のグッズを身に着けている可能性は高いのではないか。  牛に囚われているとまではいかなくても、毎日牛に関わる仕事している人ならいる。  そうだ、牧場の飼育員とかがいるのではないか! そして、牧場ならお土産屋とかに牛のキーホルダーが売ってるではないか! そこの従業員なら、それをつけてる人はいるかもしれない。そして、そんな自社製品愛の強い人がいないとしても、そこのお土産屋で牛のキーホルダーを買った人の情報を聞くことができるかもしれない。  いや、それは難しいか。キーホルダー一つ買うのに、住所や電話番号を書く必要はないだろうし。万が一知ってたとしても教えてくれるわけがない。さらに万が一、教えてくれたとして、「あなた、あの牧場で牛のキーホルダーを買いましたね?」なんて電話して訊きでもしたら、恐怖のあまりキーホルダーを叩き割って「いえ、買ってません」と、隠蔽工作をする犯人のように否認するかもしれない。  しかし、牧場は一つの有力な情報源に違いない。エミカは早速ノートパソコンを開けて、近くにある大きめの牧場を探した。  そして、すぐに目当ての牧場はあった。  宇田川牧場。駅からは離れているので電車では行きづらいが、車で行けばここから四十分くらいなので比較的近い部類だ。中にレストランや遊戯施設もあるような大きな牧場なので、ここなら、お土産屋も充実しているに違いない。  早速、エミカは鈴に声をかけることにした。エミカは車の免許は持っているのだが、肝心の車がない。昔からこのようなことがあると、いつも鈴に車を出してもらっていた。だが、車を出してもらうということは、鈴に事情をすべて言わざるをえない。さすがに突然「牧場に行きたい。牛の乳搾りしたい」とエミカが言って、疑われないわけがない。今まで、牛の「う」の字も出したことがないし、どうせお土産屋で聞き取りすることがあれば、真の目的はバレてしまうだろう。  あー、ポーリン必死だな。とか思われるのかなぁ。  友人に恥部をどんどん出していると思うと、今日何回目かわからないが、また気が遠くなりそうだった。
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