1章

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 自分の今後、特に恋愛面において助けを乞うため、エミカは占い師のブログを漁っていた。多種多様な占い師が、ブログで自分の生い立ちや、得意ジャンルなどを表現し、私たちはそれをカタログのように家からでも見ることができる。エミカはそこで初めて、占い師人口の多さを知った。もしかしたら、近いうちに日本は、占い大国の時代になることがあるかもしれないとさえ思った。  こと恋愛の占いに関しても、片思い、婚活、不倫、同性愛など様々なジャンルに対応しているものが多い。気付いたのは、占い師というよりカウンセラーに近い人のほうが多かったことだ。占いとカウンセリングは、意外と似ているところがあるのかとしれない、とエミカは思った。  だが、何時間探しても「これだ」と思える占い師に出会えなかった。そもそもの話だが、どうも皆、顔が胡散臭く見えてしまうのである。この数年で、だいぶ自分の目も濁ってしまったのか、とエミカは嘆いた。だが、ある占い師のページでエミカの目はとまった。と言っても、その占い師が興味深いことを綴っていたとか、料金が安かったとか、そんなことではない。  その占い師の名前が「法凛(ほうりん)」だったことに、エミカの目は吸い寄せられた。  ほうりん……私のあだ名はポーリン。彼女はほうりん。  頭の中でつぶやいた。そしてその似通った響きに運命性を感じた。さらにプロフィール欄で書かれている法凜の居住地も、現在のエミカの住所と比較的近い場所だった。同じ県内のうえ、最寄り駅も急行で三駅くらいしか離れていない場所だった。  占い料は、一回一時間で五千円。その値段が高いのか、安いのか分からなかったが、他の占い師の料金をいくつか見てみると、特別高いというわけではなかった。むしろ、安いほうではないか。 「自分に自信が持てない貴女、本当は貴女は魅力に溢れています。過去モテない人生を歩み続けたが、些細なことで生まれ変われた法凜が、あなたに恋愛面での開運メッセージを届けます」  その言葉の背後で、自信満々の表情で笑っている法凜が頼もしく見えた。年は四十代半ばから後半くらいだろうか。エミカは、法凜が自分の母親くらいか、それより少し若いくらいの年齢だと思った。  つまり法凜の名前、住まい、年齢、全てのところで親しみを感じたエミカは、人生で初めて占いセッションの予約をした。必要事項を入力して送るだけで、また法凜からメールがくるらしい。  結局、法凜からの折り返しメールは翌日届き、予約はその日から三日後の月曜日の夜になった。土日のどちらかで見てほしかったのだが、残念ながら土日は予定が入っているらしかった。占い師といえども、土日はきっちりと休みたいのだろうか。それとも、そこも予約で埋まっているほどの人気占い師なのだろうか。  どちらかは不明だったが、当日エミカはパソコンのビデオ通話アプリで、法凜と画面越しとはいえ出会うことに成功し、そこでメロン柄の服を着なさいということと、開運数字が6だということを教わったのである。  そして見事に六日目の今夜、そのメロンパワーで花が咲いた。ただの店員と客という関係だった皆原くんと自分が、顔見知りになれたのである。  でも、これから仲良くなるためにどうすればいいのか? 恋愛経験から遠ざかっているエミカには検討もつかなかった。ともすれば、明日スーパーの閉店間際に行って、従業員出口でメロン片手に待ち伏せしようとさえ思ってしまったくらいである。  一瞬、鈴に相談しようかとも思ったが、彼女は今最寄り駅の改札口にいる駅員に片思い中で、それどころではない気がしていた。あの改札横の駅舎の中で、何の業務をしているかわからないミステリアスなところと、骨張った頬骨の形や背骨の哀愁がたまらない、という彼女独自の好みのタイプの癖を語っていた。こちらの悩みなんて、聞いてくれる状態ではなさそうだ。  エミカは数日前とは違い、浮ついた表情で法凜のホームページを閲覧していた。一時間で五千円。今ではその料金が安いとさえ思っている。新しい人生を切り開いてくれるのなら、汗水たらして働いたお金に違いないのだが、はした金にさえ感じた。  迷わず、また次回の占いを予約した。相談内容を詳細に書く欄があるので、エミカは今回の出来事と、法凜への賛辞と感謝、そしてこれからどうやって彼と仲を深めればいいのかわからないということを、欄一杯に書き記した。なぜか、それによって気持ちは少しスッキリしたのだが、日時は法凜から折返しがくるまで、決まらないのがもどかしい。  ただ、法凜の顔を見ていると吸い寄せられるような心地だった。  早く会いたい。  その感情は皆原くんへのものか、法凜へのものか。エミカは両方ではないか、と思っていた。
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