prologue

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射精するだけして私に興味をなくしたみたいにアプリゲームに夢中になったセフレの背中には、私以外の誰かが付けたであろう線状の赤がある。 私には面白さが分からないパズルゲームをやり続けてるその男の体の前面がこちらに向けられることはない。 こうなると構ってくれないからつまらないし、ベッドから抜け出して横にあるこたつの中に足を入れた。 インスタを開いて、ストーリーを軽く眺めてとばしていたが、その途中でぴたりと指が止まる。 仲良さげなカップルのツーショット写真に、“久しぶりのデート♡”なんて浮かれた文字が上書きされている。 それは、二つ上の、美人でしっかり者な愛衣(めい)先輩のストーリー。私の所属してる軽音サークルでギターやってる先輩だ。 愛衣先輩は陽キャで人気があって何でもできてハーフ顔の美人でおっぱいも大きい。 愛衣先輩のストーリーには友達と行ったカフェでの食べ物とか、綺麗な景色とか沢山上げられるけど、たまにこうして彼氏との幸せそうな写真が上げられる。 近場の遊園地と思われる場所で、バカみたいな飾り物の耳つけて隣に映っている男は、サークル内ではクールイケメンだとか言われている同じくギターパートの由良(ゆら)先輩。サークルで一番ギターが上手いから一目置かれてる。 彼女が頼めばこんならしくないことしちゃうんだ、ってちょっと笑ってしまった。 きっとこの後疲れて家に帰って、少し休んで、酒飲んでエッチしてそのまま朝まで寝ちゃうんだろうなあ。 ホーム画面の一番左上にあるLINEのマークを押して、割と上の方にあるアカウントをタップして、トーク画面を開く。 【さっき男に追い出されたんですけど、暇してないですか?】 もう0時過ぎてるし無理かな、なんてあまり期待せずにほろよいの缶を開けていると、すぐに既読が付いた。 【男の家戻れ】 【何でですか】 【危ないだろ】 レスポンスの速さのおかげで、私のことが心配で内心焦っていることが丸分かりだ。 【暇してないならもういいです】 そう送ると、既読が付いた後返信が来なくなった。 しばらくして、 【どこいる】 とだけメッセージが送られてくる。 ああ、準備してたのかって笑った。 【大学の近くのファミマです】 【中にいて】 【俺も酒入ってるから、歩いて送る】 “ありがとうございます”という可愛いウサギのスタンプを返してから、立ち上がってズボンを履いた。 「え、帰んの」 私に背を向けてアプリゲームをしていたセフレがこちらを見上げてくる。 「うん。明日朝早いし」 「ふーん、そう。んじゃまた連絡する」 ベッドの中から手だけを振ってきたセフレは、こんな夜中でも私を送る気なんてさらさらない様子だ。 まぁ、この大事にされてない距離感が私にはちょうどいいんだけど。 セフレの借りてるワンルームから出ると、それまで暖房で暖かく過ごしていた身体が悲鳴を上げた。 さぶ、と白い息を吐いて、待ち合わせているファミマまで歩いた。と言っても徒歩一分くらいの場所だからすぐに着く。 飲みかけのほろよい置いてきちゃったな。まぁいいか。 中に入ってあったかいココアを買って、今週のサンデーの好きな作品だけ立ち読みしながら彼を待った。 数話読み終わってもまだ連絡が来ず、何もすることがなくなって一旦外へ出る。 これから外を歩くから、寒さに身体を慣らしておきたい。 そうこうしているうちに、向こうから誰かが走ってくる音が聞こえた。 深夜は車通りが少なくて、音がよく響く。 こちらに向かってくるのは、黒髪ですらりと足が長くて色白で気怠げな、遠目に見てもわたしのドタイプの外見をしている――……由良先輩。 相変わらず私好みの、DVしてそうな顔だな。 由良先輩は冬の夜にしては薄手のカーディガンだけを羽織った寒そうな格好をしていて、急いで出てきたんだろうなって思った。 「こんばんは。由良先輩」 「バカだろ、お前」 私がにこりと笑って“ご挨拶”をしたにも関わらず、由良先輩の方は間髪入れずに随分な罵倒を仕掛けてくる。 「今何時だと思ってんだよ」 「別に子供じゃないんだから夜でも一人で帰れるのに、迎えに来るのは由良先輩じゃないですか」 寝てる愛衣先輩(カノジョ)、置いてきたんだろうな。 そんなに私のこと大事ですか? って聞くのは意地悪だからやめておこう。
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