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きみにさよなら
二月初旬、全てのテストが終わった。
私は今のところギリギリ再試に引っかかっていることもなく、無事春休みを迎えられそうだ。
六十点代七十点代しか取れていない私に比べて小百合はどの科目も九十点以上。
ギャルっぽい見た目からは想像がつかないほど頭がいいのでムカついた。
ドヤ顔でテスト結果の画面を見せられた後、一緒に講義棟の階段を下りている途中で、ふと小百合が言う。
「そろそろ揃えないとやばくない? 次のライブのバンドメンバー」
そういえば先月、小百合は私に次のライブで一緒に組まないかと誘ってきていた。
「あれ卒業生追い出しライブの話だったの? 次年度の話だと思ってたんだけど」
卒業生追い出しライブに間に合わせるならそこそこうまい人を集めないといけないし、参加不参加のアンケートもそろそろグループで出されるはずだ。
……ていうかアンケートもう出てないとおかしくない?
そうか、愛衣先輩がいないからそこもまごついてるのか。
「何言ってんの、伊月さんの学年がいるうちにできる最後のライブよ? いいとこ見せたいし絶対やるって」
まぁ、楽器の練習をするのは私じゃなくて小百合だし、間に合わせられるなら全然いいけど。
メンバーを揃えると言っても、これまでの私は伊月先輩やはるりん先輩の力でバンドメンバーを揃えていたのだ。
どちらも卒業生だからバンドには参加しないし、今回ばかりは小百合経由じゃないと人員を集められない。
そんなことを考えていた矢先、講義棟を出る際の自動ドアの前で、ある人物とすれ違った。
私のことを呼び出して殴った気の強そうな女だ。
――あ。こいつそういえばキーボードうまかったっけ。名前忘れたけど。
そう思い出すと同時に何となくその行く手を阻むように立ち塞がってしまった。
「……何アンタ。邪魔」
「卒業生追い出しライブ出る?」
「は、何の話」
「出るかって聞いてるの」
「出ないけど……」
「他のバンドに出る予定ないなら今から暇でしょ。私たちと一緒にバンド組まない?」
隣の小百合が「どんなナンパの仕方!?」と焦った様子で私と気の強そうな女の間に入ってくる。
「ごめんね咲希、この子ちょっと強引で……」
「ちょっとどころじゃねーだろ。てか何でアタシ誘えんだよ頭湧いてんじゃねーの」
小百合が咲希と呼んだことでこの女の名前が咲希であることを知った。さすが小百合、サークルメンバーの名前はちゃんと覚えているらしい。
「殴られた貸しがあるからね。言うこと聞かないと愛衣先輩にチクるから」
ぐ、とこの前私を殴ったことで愛衣先輩に相当注意されたであろう咲希が口籠る。
殴ってきた相手を誘うなんて癪だが、同学年の中じゃ咲希が一番キーボードがうまい。今からバンドを組んで演奏をそれなりのクオリティにするには必要な人材だ。
……あ、そうだ。
どうせなら他のバンドメンバーはあの子たちにしよう。演奏の技術力的にもちょうどいいし、同学年だから誘いやすい。咲希と一緒に私をいじめに来たくらいだから咲希とも仲良いだろうし。
「ちょっと桜狐、悪い顔してるけど大丈夫?」
悪巧みをする私を、小百合は怯えるような表情で見てきたのだった。
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