きみにさよなら

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 : 「え、由良さんにフラれたの……?」 「アンタみたいな女フラれて当然っしょ。ざまぁ」 二十四時間営業のファミリーレストランの一角で、私、小百合、咲希、その他二人は会合していた。 なんせ卒業生追い出しライブまで時間がない。今日は何の曲をやるか、いつバンド練習をするかを決めに集まったというのに――私のテンションが物凄く低いことに気付かれたあたりから何故か恋バナが始まり、私は咲希たち嫌がらせ女たちに罵られているところである。 「そもそも人の物に目ぇつけて純愛ぶってる時点でおかしいんだよ」 「ごめんね桜狐ちゃん、咲希昔バイト先の後輩に彼氏取られたことあるからこういうこと言っちゃうの」 また愛衣先輩にチクられるのではと危惧したらしい咲希の取り巻き二人が咲希をフォローした。 ああ、なるほど。だから必要以上に私に敵意剥き出しなわけね。愛衣先輩の信者だからってだけじゃなかったんだ。 「……桜狐大丈夫?」 「何が」 「さっきから暴食が止まってないみたいだけど」 フライドポテトを頼んだりハンバーグを頼んだりとこの短時間で有り得ないほど大食いしている私を、隣の小百合が心配そうに覗き込んでくる。 「今日くらい許して。失恋したばっかなんだから」 そう言ってフライドポテトを食べ続けていると、「夜は食べねー」とか言って水しか飲んでいなかった咲希がそのうちの一本を取ってきた。 「アンタ由良先輩のことマジだったんだ。遊びだと思ってた」 「それ多方面から言われるんだけど、何? 私は大マジだった。今度言われたら相手の顔面殴りたくなるくらい」 「フーン……ま、次はフリーの男見つけたら」 素っ気ない感じで投げられた言葉。咲希なりに辛くてイライラしている私を励ましてくれているのかもしれない。 「私、桜狐ちゃんは伊月さんとそういう感じなんだと思ってた」 ドリンクバーでカルピスソーダを入れてきたらしい咲希の取り巻きがストローをくるくるして氷を動かしながらぽつりと言う。 「……何で?」 「どう見たって伊月さん、桜狐ちゃんのこと好きじゃん。部活中よく桜狐ちゃんのところ行ってるし、ずっと桜狐ちゃんと喋ってるし、私たちが桜狐ちゃんを責めた時も庇ってたし。伊月さん特定の子と仲良くしてることあんまないから、目立ってたよ二人」 由良先輩にフラれたことで頭がいっぱいという時にその話題を持ってこられたら脳がパンクしそうだ。 そうか、他の人から見ても私と伊月先輩ってそんな感じだったのか……。 「告られてはいるよ」 「ええ!?」 誰よりも反応したのは隣の小百合である。しまった、心の消費が激しくて疲れているせいで何も考えず発言してしまった。 「い、いいいい伊月さん告ったの!? あんたに? いつ?」 「先月。」 「あっ……だから最近お昼こっち来たりして露骨に桜狐に絡んでるんだ? もう気持ち隠す気なくなったってこと? いや、そうじゃないかとは思ってたけど……マジ……」 「ごめんね、小百合の好きな人取っちゃって。でも伊月先輩私の入学当初から私のこと好きみたいで……ゴメンね?」 「うっわムカつく! ヤな女!!」 こちらも失恋して悲しんでいるところなので少し意地悪してしまった。 小百合はテーブルの下で地団駄を踏んで悔しがっている。 「このテーブル二人も失恋女がいるのおもしれーな」 「うん……。ていうか咲希、そろそろライブの話しないと日付変わっちゃうよ。私明日朝からバイトだから早く決めて帰りたい」 私たちの前方の席には、ケラケラ笑う咲希と、本題に戻そうとする取り巻きがいた。取り巻きたちは仕方無くバンドを組んでいるだけで特に私と仲が良いというわけではないため、早く帰りたいのだろう。 「あー、そうね。最近好きな曲ねーから決めらんないわ。アンタらなんかやりたいのある?」 「んー、強いて言うなら……」 「小百合の好きなあのセフレ関係に酔った女々しい曲は嫌だよ」 「私の言おうとしてる曲当てないでくれる? てか、人の好きな曲に文句言うなら桜狐が決めてよ」 ぎろりと睨んでくる小百合だが、童顔なだけにあまり迫力がない。 曲か……卒業生追い出しライブだし、卒業生に需要ある曲の方がきっといい。とすれば。 不意に伊月先輩の顔が頭に浮かんだ。 次に、ある曲のメロディが脳内を流れる。あのバンドの曲、どれも歌うの苦しいんだよな。……でも。 「――――BlueNovelが最後に出した、“卒業”っていう曲がいい」 あの人への(はなむけ)なら、これがぴったりだろう。
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