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日が暮れてから私たちは改めて集まった。
私が予約したのは、落ち着いた雰囲気と洗練されたデザインが特徴的な高級感のあるバーだ。
それ故小百合が少しそわそわしている。
「ちょっとお洒落すぎない?」
私たち三人はうるさい咲希の性質上いつもガヤガヤした居酒屋で飲んでいるため、このような店に来たのは初めてだ。私は男と遊んでいた頃よく来ていたバーなのだが、小百合たちは慣れない様子である。
「卒業した日くらいちょっと高いとこでもいいでしょ」
バーカウンターにはワインボトルやスピリッツのラインナップが並んでおり、バーテンダーが手際よくカクテルを作り上げている。私たちが座っているソファも高級感のある革製品で居心地の良さも抜群だ。
「こんな雰囲気は求めてねーよ! アタシもっと騒ぎたかったんだけど!?」
「咲希はこれを機におしとやかさを学んだらいいんじゃない?」
「バカにしてんの!? アタシだってこういうとこだったら大人しくできるし!」
――――とか何とか言っていた二時間後、咲希はベロベロに酔って声のボリュームが大きくなった挙げ句、トイレに籠もって吐き始めた。
おしとやかはどうした、おしとやかは……と呆れる私とは裏腹に面倒見のいい小百合は咲希に水を与えにトイレに旅立ってしまった。
ぽつんとソファに残され暇になり、一人プレイリストをいじることになった。
咲希は弱いくせにめちゃめちゃ酒を飲む。あの様子じゃ二次会は無理だな、と思いながら、懐かしのBlueNovelの曲を再生しながらDMを返して待っていると、
――不意に懐かしい香りがした。
なんだっけこれ、と見上げるより先に、耳につけていたAirPodsを何者かに奪われる。
驚いてそちらを向くと、色気しかないお洒落な大人の男性が立っていた。シックな服装がよく似合っている。
え、めっちゃかっこいい、と思わず見惚れてしまった。
「また聴いてる」
その男性から発せられた声が聞いたことのある声で違和感を覚えた。
「言っとくけど、示し合わせたわけじゃないからね。会社の同僚と来てたら、たまたま桜狐を見つけただけ。これって運命じゃない?」
私はその男性を凝視する。薄暗いのと、雰囲気が二年前よりもずっと大人っぽくなっているせいですぐに気付くことができなかったけれど、かつての部活の先輩が確かにそこにいた。
「……伊月先輩?」
「正解。気付くの遅すぎでしょ。もう忘れたの? 寂しいなぁ」
伊月先輩がカクテルを持ったまま私の隣に座り込む。
「……一緒に来てるの、女でしょう。早く戻った方がいいのでは?」
「何で女?」
「男だけで来るとこじゃないですよ」
「正直言うと女の子もいるけど、同僚が狙ってる子だし、二人じゃないよ。そろそろ同僚と二人きりにすべきタイミングだし、ちょうどいいかも。俺も獲物見つけたし」
「獲物て……」
なんて言い方するんだ、と軽く睨むと、伊月先輩がにやりと笑い返してくる。
「やきもち?」
「は?」
「俺が他の女の子と来てるんじゃないかって不安になった?」
「調子乗らないでください」と言い返したところで、二年も会っていなかったのに、伊月先輩にはまるでずっと友達だったみたいな話し方ができる自分に少し驚いた。少しも久しぶりな感じがしない。それどころか安心感が凄い。
既セクの友達ほど信頼できるものはないと私は思っているが、それにしても伊月先輩の安心感はレベチである。
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