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月曜日の朝一番、決まって柳井にアポイントメントを入れてくる客先がある。機械器具メーカーの営業として働く柳井にとって客先に出向いて話をするのは当たり前のことだった。
幾つかのメーカーと取引をする商社の人間とパイプを作って、他社よりも自社の製品を売り込んでいく。商品自体の知識や扱いもさることながら、人間関係がものをいう仕事とも言えた。
そこで頻繁に会ってくれる担当者に文句を言うべきではない。それを苦にしているようでは営業なんて務まらない。
しかし柳井の気持ちは塞いで、もう一度吐息を漏らしそうなった唇を強引に指先で抑えた。
付き合いの長いその代理店は売り上げこそそれなりだけれど、上部の人間にコネがあるのかやたらと強気だった。金を支払ってくれる相手には阿る社長は金を払う先の人間のことは奴隷か何かと勘違いしているらしい。電話の取り次が少しでももたつくと受話器越しに耳をつんざくような大声で怒鳴るのが常だった。
トップがそんなだからか柳井の相手をする社員もなかなかに酷い。社長の妹だとかいう中年の女性は柳井を見るたびに小首を傾げてくる。弾みで垂れた髪を耳にかけてねっとりとした視線を投げかける。
仕事中に取引相手を見る目つきではない。しかし十ほど年上の彼女はそんなことに頓着しないらしい。
柳井は自分の容姿が女性に受けがいいことを自覚している。
177センチの身長に付きすぎではない筋肉。悪いことを企む猫のような二重の目や、いつも笑っているように撓んだ唇、そして左目尻の下にあるほくろ。それらが彼女たちの性感を刺激するのだろう。もっと端的にいやらしくセクシーな顔立ちと言われたこともある。
しかし柳井の中身はそんな外見と釣り合っていない。派手な外見のせいで勘違いをされることが多いけれど、好意を寄せてくれる女性を手玉に取れるようには出来ていない。人の感情を弄ぶのは嫌いだ。
出来るなら信頼のおける人間とゆっくり関係を築きたい。本当は彼女たちが期待するような派手な男ではなく、真摯で真面目で少し臆病なのだった。
なのに柳井の容姿に惹かれて近づいてくる人物は、彼の外見が全てだと言うように軽い男だと信じて疑わない。遊び慣れていると思って近づいてくる。だから平気で打ち合わせ中に手を握って来たりする。
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